ぬか床のある部屋に向かったいぶが小さく悲鳴をあげる。
片隅に黒い服を着て寝ている人影があったのだ。

「もう。びっくりした。志雄さん、またそんな所で寝てるの?
打ち上げの帰り?そんな所で寝てないで、こっち来てお茶漬け食べなさい」

うにゃぁ、と猫のような声をあげ、志雄がゴソゴソと店に這いずって来た。
小気味良い音を立てて漬物を食べ始める。
時々、つくね亭の招き猫であるイブにちょっかいをかけながら、
黙々と食べている。
よく見かける光景なので、誰も気に留めない。

いぶの説明が続いた。
「市販のぬか床には最初から唐辛子とか色々入ってるけどね、
色々と工夫するのがその家の味になるの。
ビールを入れると糠が柔らかくなるし、キャベツとか人参の皮を入れる家もあるわ。
3日ぐらいしたら皮を捨てる事が肝心よ。
あとは…鷹の爪・昆布・ゆでたまごの殻・ヨーグルト・農薬抜きした柑橘類の皮。
とにかく毎日毎日、新しい野菜を入れて漬かった物を食べていくのよ」

皆熱心にメモを取っている。
三へ