電話の向こうで香織は、珍しく声を荒げていた。
「言わないけど、仲間に頼まれたのよ。間違いないわ」
「良太は?」
「部屋から出て来ない。ねぇ、どうしたらいいの、私もう判らない」
「判った。相談できる人がいるから。良太がまた、妙な考えを
起こさないように気をつけていてくれ」
啓吾は、少し早目に道場へ行った。
美濃浦が一人でサンドバックを蹴っていた。
凄まじい音がする。 啓吾はしばらく見とれてしまった。
「あ。太田さん、早いですね、今日は」
「押忍。師範、少し話してもいいですか」
啓吾は、事情を美濃浦に話した。
どうしたらいいのか判らなくなったと、正直に打ち明けた。
しばらく考え、美濃浦はいつもの微笑みを啓吾に向けた。
「太田さん、試合に出ないか」
「試合ですか?」
「そう。これ。」
美濃浦が差し出したチラシには、『円極流関西地区大会』と
書いてある。
「うちの流派の門下生なら、年齢も帯の色も無制限。うちの支部からも
毎年、何人も出てます。四人勝ち抜いたら優勝だ」
美濃浦がチラシを啓吾に渡しながら続けた。
「あなた、これに出るべきだ。そして、その姿を息子さんに
見せてあげてください。今、息子さんに必要なのは、
言葉じゃないと思う。」
「私に…できますか」
啓吾は目を伏せた。自分の腕が見えた。右腕に傷がある。
その傷は、良太がまだ幼い頃、野犬に襲われかけた時に
身を持って庇った時についた傷だった。
俺は。俺は、あの時、良太を守ることができた。
背中に良太をかばって、必死に守ったんだ。
あの時の背中を俺はもう一度、良太に見せなければならないんだ。
「出場します。させてください」
啓吾は真っ直ぐに美濃浦を見返した。
「言わないけど、仲間に頼まれたのよ。間違いないわ」
「良太は?」
「部屋から出て来ない。ねぇ、どうしたらいいの、私もう判らない」
「判った。相談できる人がいるから。良太がまた、妙な考えを
起こさないように気をつけていてくれ」
啓吾は、少し早目に道場へ行った。
美濃浦が一人でサンドバックを蹴っていた。
凄まじい音がする。 啓吾はしばらく見とれてしまった。
「あ。太田さん、早いですね、今日は」
「押忍。師範、少し話してもいいですか」
啓吾は、事情を美濃浦に話した。
どうしたらいいのか判らなくなったと、正直に打ち明けた。
しばらく考え、美濃浦はいつもの微笑みを啓吾に向けた。
「太田さん、試合に出ないか」
「試合ですか?」
「そう。これ。」
美濃浦が差し出したチラシには、『円極流関西地区大会』と
書いてある。
「うちの流派の門下生なら、年齢も帯の色も無制限。うちの支部からも
毎年、何人も出てます。四人勝ち抜いたら優勝だ」
美濃浦がチラシを啓吾に渡しながら続けた。
「あなた、これに出るべきだ。そして、その姿を息子さんに
見せてあげてください。今、息子さんに必要なのは、
言葉じゃないと思う。」
「私に…できますか」
啓吾は目を伏せた。自分の腕が見えた。右腕に傷がある。
その傷は、良太がまだ幼い頃、野犬に襲われかけた時に
身を持って庇った時についた傷だった。
俺は。俺は、あの時、良太を守ることができた。
背中に良太をかばって、必死に守ったんだ。
あの時の背中を俺はもう一度、良太に見せなければならないんだ。
「出場します。させてください」
啓吾は真っ直ぐに美濃浦を見返した。