「これはいかんですぞ。助けなければ」

「いや、又佐。黙ってみておれ。太郎丸もな。
面白いものが見られるぞ」

刀を突きつけられた紫近太夫は、微笑んだまま、髪からかんざしを一つ手にした。
その手が振られた途端、浪人の手から刀が落ちた。
見ると、かんざしがその手に突き刺さっている。
駆けつけた吉原の若い衆が寄って集って、浪人を縛り上げてしまった。

「なんとまぁ…すごい女子もいるもんですなぁ…あのような技を
誰に教わったんでしょうな?」

「俺だ。」

「…はぁ?」

「だから俺だ。」
ぽかん、と口を開けたままの又佐を残し、十兵衛は紫近太夫に近づいた。

「太夫、あいかわらずだな」
声をかけられ、振り向いた太夫の整った顔があからさまに変わった。
今にも泣き出しそうな少女の顔になったかと思うと、するすると
十兵衛に近づいてくる。
「十兵衛…さま」

三十六へ