19世紀後半、アメリカは国中に鉄道網を敷いた。
不況の真っ只中である。
職を求めて大陸を放浪する人々が、この鉄道を利用した。

ただし、無賃乗車でだ。
彼らはHobo(ホーボー)と呼ばれた。

町から町への根無し草である彼らは、フロンティアスピリットに憧れる若者達の支持を受け、そのライフスタイルは文学や音楽に多大なる影響を与えた。


一人の伝説的なホーボーの話をしよう。

彼の名はウィーピーJとしか判らない。
年老いた黒人だが、本当の年齢も判らない。

ウィーピー自身も忘れてしまったのかもしれない。

彼の手には、いつも小さな10ホールのハーモニカ、いわゆるブルースハープと呼ばれる楽器があった。

それはイコール、彼の手にいつもブルースがあるということだ。

ウィーピーは、ハープ一本で全米中の汽車を真似できた。

谷を越え、鉄橋を渡り、夕日に向かって速度を上げる。
聴いている人々は、まるで自分が今、汽車の中にいるように思ったという。


ある程度、おそらくバーボンを一本買えるぐらい稼いだら、ウィーピーは汽車に乗る。

屋根の上が彼の指定席だ。

無賃乗車には厳しい車掌達も、ウィーピーにだけは何故だか甘かった。
end