台所でとんでもない騒音がした。
日曜日の朝、千絵はゆっくりと眠るつもりだったのだ。

「もう…なにやってんだか」

ぶつくさ言いながら階段を降りる。

「ひぇぇ。」

思わず息を呑んだ。
台所に真っ白な女が立っていたのだ。
よく見るとそれは、母の伸子だった。

「母さん。何の罰ゲーム?」

千絵は腰に手を当て、呆れ顔で言った。
いつもこうである。
母が台所に立つと、何かが壊れたり汚れたりする。

(何の罰ゲーム、か…まるで父さんのセリフだ)
父は、そう言っては母をからかっていたのだ。

母の失敗をいつも愉しげに見守り、後片付けを嬉々として受け持つ、それはそれは奇特な男性であった。

その父が急死したのは十二年前の春。
過労死である事は間違いないと思われたが、労災の認定が受けられなかった。

母は二日間だけ泣きに泣いて、三日目の朝には既に仕事を決めてきた。

千絵が中学生になったばかりの頃である。
その時から、家事は分担制になったのだが、炊事だけは千絵がやった。

その方が何かと都合が良いからだ。

毎日、自分と母に弁当を作り、下校して直ぐに夕食の支度を始める。

二へ