「呆れたものかどうか、その体で知るが良い」
十兵衛は福禄寿に近づくと、その頭目掛け刀を走らせた。

「おおっと、危ない危ない。戻るぞ寿老」
再び福禄寿と寿老人が一体になる。

「ほれほれここじゃ」
寿老人の背中から、福禄寿の声がする。

「我らは互いの体内を自由自在に行来できるのだ」

十兵衛の刀が間髪を入れず、寿老人の首を横薙ぎに払った。
だがそこには、既に首は無い。
寿老人の頭は腹に移動し、そこから十兵衛を見上げて笑う。
福禄寿の笑い声は右の太股から聞こえてくる。

「我等の頭を狙うようじゃが、無駄じゃな。
さて、充分楽しんだの。今日のところは
ここまでじゃ。また来るぞ、十兵衛。必ずや紫近大夫は
我らが仲間にしてみせる」

寿老人は四つん這いになった。いや、正しくは四つん這いとは言えぬ。
何故なら、その体から突き出している手足は八本だからだ。
背中から生えた福禄寿の首が大声で笑い続ける中、
凄まじい速度で寿老人は走り去った。
韋駄天でさえも追いつくことは難しいかと思われるほどの速度であった。
十兵衛達は、背中に冷たい汗を感じながらその姿を見送るしか
手立てが無かった。

六十六へ