「お客様。お父様は
あなたの事が大好き
だと思いますよ。」

「他人のあなたに何が
わかるんですか!」

「わかるんです。
このラジオを点ければ
。」

「ラジオ…?」


「えぇ。どうか耳を
澄まして。」


マスターがラジオの
電源を入れた。

古ぼけたスピーカー
から、男性の唄が
流れてきた。
お世辞にも上手とは
言えない。
ただ、一生懸命に
唄っていた。

曲目は『こんにちは
赤ちゃん』。
歌詞を変え、わたしが
パパよと唄っていた。

「何これ?下手な唄…」


女性が言いかけて
止まった。

「この声…お父さん!」


何かのノド自慢番組
らしい。

『はい、ありがとう
ございました。いやぁ
渡辺さん大熱演でした
ね。お子様が生まれた
んですか?』

『えぇ、早産だった
ので心配したんです。
私の大切な宝物ですよ
。』

幸せそうに答える。

「お父さん…」


「もう少し話し合われ
てもよさそうですね。」

「マスター、その
ラジオは…?」

「これは、わがままな
ラジオでしてね。
聴かせたい曲しか
流さない。必要な時
しか電源が入らない。
このラジオが聴けた
という事は、お客様
、大丈夫。きっと
うまくいきます。」

さっきまでの青ざめた
顔が嘘のように、
女性は微笑んだ。

「もう一度、二人で
話してみます。」


次の日曜日。
いつものように店には
穏やかな時が流れて
いる。

あのラジオの前には、
父親と向かい合う
女性の姿があった。

二人とも笑っていた。

マスターは二人の為に
取って置きのカップを
使う事にした。