大谷さんから聞いた話。

大谷さんは中学生の頃、住み慣れた土地を離れた。
引越して最初の日曜日。
犬の散歩中、彼女は独りきりで遊んでいる少女を見つけ、
何となく声をかけた。
「こんにちは。独りで遊んでるの?お母さんは?」

警戒しているのか、少女は返事もせずに遊び続けている。

「ねぇ。犬好き?さわってみる?」
大谷さんがそう言うと、少女はようやく頷き、嬉しそうに犬に近寄ってきた。
粗末な服から覗く体中に傷がある。

「ねぇ、その傷…どうしたの?」
 大谷さんは思わず訊いた。

「ころんだの」
少女は俯いたまま答えた。
不審に思った大谷さんは、帰宅後、見たままを母親に話した。
「知ってるわ。明子ちゃんて子よ。この先のアパートに住んでる」
大谷さんの母親は、既にその少女の事を知っていた。

「二年前に父親が再婚したんだけどね、その頃からだってさ」

事情を知った大谷さんは、犬の散歩中だけでも
精一杯遊んであげようと決めたそうだ。
明子ちゃんの傷は絶える事が無かった。
いつ会っても常に新しい傷ができている。

「ねぇ。あきちゃんさ、なんか痛いことされてない?私にできることないかな?」
大谷さんが堪りかねて訊くと、明子ちゃんはニッコリと笑った。