柳生江戸屋敷は虎の御門口にある。
もとより、太郎丸と韋駄天は屋敷内に上がることは出来ない。
門の前で所在なさげに座り込んでいる。
その二人に声をかける者が居た。
どう見ても、堅気では無い。

「坊主。おめぇ、延命丸を探してんのか?」

「何だいおじさん。延命丸知ってんのかい」

「あぁ。知ってるとも。売っている場所もだ。
…ちょっとその犬っころ黙らしてくんねぇか」
韋駄天が先ほどから低く唸り続けているのだ。

「あ、あぁごめんよ。韋駄天は悪い人を見ると唸るんだ。
おじさん、悪い人だろ」

「てやんでぇ。べらぼうめ。こちとら、腕っぷしで評判の
お兄ぃさんよ。悪い事の一つや二つ、なんてこたぁねぇ。
それよりどうすんだ。買いに来るのかこねぇのか」
威勢良く啖呵を切ったのは良いが、腰が引けている。
犬が怖いらしい。

「行くけど、今は駄目だ。俺は用心棒だからね、ここで
待ってなくちゃ」

「じれってぇな。じゃあ、体が空いたらここへ来な、だいこくってところだ。
あの侍も必ず連れて来いよ」
男は何やら書き付けた紙を太郎丸に手渡した。
その途端、吼える韋駄天に、ぎゃっと叫んで逃げていく。

「あ、おい、待てよ…弱虫だなぁ…。韋駄天、もう行っちゃったから。
いつまで唸ってんだ?」
太郎丸は男から渡された紙を見た。
そこには地図が描かれてあった。
丸く印が打たれ、『大黒』とだけ書いてある。

太郎丸には判らなかったが、その紙からは
奇妙な臭いがしていた。
そのことが韋駄天を唸らせ続けていたのだった。

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