その頃、友香達は一つ上の階を反対方向に向けて
走っていた。

「あぁもう、息が続かない~」
「何だってこんなに広いのよ、ここ」
「頑張って、あともう少し」
と突然、麻理が立ち止まった。

「危ないわね、なによ麻理っ!」

「静かに。聞いて」
麻理が唇に人差し指を当てる。

ぬちゃ。

「ほらあの音」

ぐちょ。ぬちゃり。
「…な、なんだか嫌な音ね」
理沙が溜息混じりに言う。
「すごく湿っぽい、っていうか粘液っぽい何かが動いているのでは」

階段の横、検査部と書かれたドアから、それは溢れた。
灰色や鮮紅色の物体がぐちょぐちょと這いずり回る。
一見、蛇か巨大なミミズのようだが、それは人間の内臓であった。

「ねぇ。あたしさ、関西に行った時、ホルモン焼き食べたのよ」

「なによ、理沙。こんな時に」

「もう二度と食べられない気がする~」

「のんきなこと言ってる場合じゃない!」

内臓は、階段の前でとぐろを巻いた。
腸がほとんどだが、胃から先も付いている。
そして鎌首のように持ち上がった先端に
あるのは、明らかに口であった。

「あれを突っ切っていく根性ある人、手をあげて」
友香の声に誰一人答えようとしない。

「無理。あの鎌首見なさいよ。あの口、牙が
生えてるじゃない!」

確かに、鎌首には牙が生えていた。噛付かれたあと、
どうされるかは、容易に想像できる。
相手は消化器なのだ。
だが幸いにも、動きは遅い。