「くそ、離せよお前等は偽者だろうが」
焦る玉男は、ここでようやく『削除』ボタンの存在を思い出した。

「ちょ、ちょっと離せってば」
必死に振り払い、玉男はFLEX市役所を持って社会保険庁に戻った。
訝しがる警備員に、急ぎの書類を忘れていたと説明し、
自分のデスクに戻る。

「どれだどれだ、くそ、何でこんなに多いんだ。あった。これだ」

12枚全てを見つけ、震える手を抑えながら削除を開始する。
液晶画面に『全削除済』という文字が現れた。

「よ、よかった…これで元通りだ」
ホッと胸を撫で下ろし、自宅へと向かう玉男は、
大切な事に気づいていなかった。

全て元通りになるということは、振り込まれた金も全て消えるという事である。


玉男の後をつけてくる車がある。
中には、本来の性格を剥き出しにした鮫が乗っていた。
「よっしゃ。今だ、さらっちまえ」

玉男は悲鳴を上げる暇も無く、鮫の車に引きずり込まれた。
「鯛下さん、あんた約束破ったね。これ以上は俺の首が危ないんでね、
すまんがその体、売らせてもらうよ」

「う、売るって何をどう」

「知らない方がいいよ。あんたらは知らないだろうけどね、人の体で
売れない場所ってのは無いんだよ。皮膚も骨も血液も、ぜぇぇんぶ売れる。
あんたは行方不明ってことで決着がつく」


鮫が笑うとこうなるのか、玉男は妙に納得した。

行方不明か…いやだな
もう一度、FLEX市役所を動かしたい、玉男は切望した。

せめて最後に『死亡診断書』を

残念ながら、ここで彼の意識は途絶えた。