「ここから見える土地のほとんどが私たちの物。
だから、どこをどう売っても文句は出ないの。」

「でも今現在、人が暮らしている場所はまずいだろ?」

「かまわないの。村の人達は皆、私たち一族の為に生きているから」

「随分、奢った考えだけど…」
沙耶加がその細い指先を林田の唇にあてた。

「しっ。その言葉はお姉さまの前ではタブー。
一族の悪口は絶対に言っては駄目」
「あ、あぁ。」

その細い指先がどけられ、代わりに林田の唇は
沙耶加の唇でふさがれた。

小鳥が餌をもらうような、一瞬だけの幼い口づけ。

「そしてこれも言ってはダメ。さ、帰りましょ」
林田は沙耶加に手を引かれ屋敷に戻った。

沙耶加の小さな唇の感触がまだ、残っている。
与えられた部屋に戻り、ポットから水を飲む。
相変わらず頭痛は治らないが、少しはマシになった。
冷静に物事を考える余裕もできた。

そして、未だに形を成さない疑問がまた、頭に浮かんできた。
なぜ、土地を売らなければならない?
いくら特殊な治療に使うと言っても、
これだけの屋敷や土地を持っている一家だ、
ある程度の貯金があるだろうに。
それとも、とてつもなく費用がかかるのだろうか…
その疑問を考える暇も無く、林田は成加に呼ばれた。

「林田様。いかがでしょうか。私どもの提示する土地、
高く売れるでしょうか。」

「えぇ、それはもう…。これだけの自然環境が有れば、
別荘地としては文句の付け所がありません。」

「ありがとうございます。では、一度、契約書を
お預りさせてもらえますでしょうか」

「あ、今、お持ちいたします。鞄の中に…」

林田の言葉をさえぎるように、障子の外から声がした。

「申し訳御座いません、田畑です。沙耶加お嬢様、予定より
早く始まりました。」

「わかりました。下がりなさい。林田様、急用が入りました。
一旦、部屋でお待ち願えますか。」