その時だった。ふ、と頭が軽くなった。
己が動かしている気がしない。
それぐらい楽になった。
見事な頭遣いに場内が静まり返った。
そうこうしているうち、どうにか、手に感触がもどってくる。

無事に舞台を終え、楽屋に戻りながら、
珠男には既に判っていた。

「助けてくれたんやな。おおきに、ありがとな、
えぇ頭遣いやったで」

珠男は、机の上に置かれた志郎の写真に向い、
そっと手を合わせた。


以上が私が聞いた話である。
話し終え、珠男はしみじみと言った。

「ほんまに不思議やったなぁ…怖いとも何とも
思わへんかったけどな、一つだけ困ったことがあってな」

「それはなんですか」
と私は尋ねた。

「涙が溢れてきて手元が見えへんのや。あれは参ったな」

珠男氏は何故か、上を向いたまま答えたのであった。