一刻ほど後、烏天狗の亡骸を発見した者がいる。
東軍の偵察妖怪、一反木綿である。
直ちに仲間の烏天狗が呼ばれた。

「なんだ。この太刀筋は。我らが仲間、そう容易く
斬られる筈が無いのだが。」
亡骸は、箱根天狗の前まで運ばれた。

箱根天狗。生きながら、伝説とされている妖怪。
高々とした鼻、巨大な翼。まさに天狗の総帥である。
威容を放つこの妖怪は己が部下を見て、首を捻った。

「刀、じゃな。」

「御意。」
部下の烏天狗共が答える。

「だがこの太刀筋、只の侍では無い。
これほどの腕を持つ侍…、
はて、とんと見当がつかぬ。」
箱根天狗が首をひねるのも無理は無い。

この時期、十兵衛は歴史という舞台から姿を
消してしまっている。
家督相続の争い事に倦み疲れ、武者修行と称して
家を捨ててから、既に三年の月日が経っていた。

「いずれにしろ、龍の勾玉を奪われたのは事実らしい。
猫又の手下に違いあるまい。
行方を探し出し、必ずや奪い返せ。」

妖怪達が応、と低く答え西に向かった。

その頃、十兵衛は瀬田を抜け、山科に差し掛かっていた。
未だ、雪がそこかしこに残っている。
十兵衛の懐にいるミチクサは、様態が落ち着いてきた。