恵美ちゃんは派手なメイク一つせず、白い着物に自毛だという長い黒髪で、
しっとりと佇んでいるだけなのだが、大変に雰囲気があった。
俺は、休憩に向かう彼女にヒソヒソと話しかけた。
「君、めっちゃ上手いなぁ」

「え?そやかて、あたし役者志望やもん」

なるほど、修行を兼ねて働いているわけだ。
俺もミュージシャン志望だ。話が合う。
たちまち、恵美ちゃんと仲良くなった。
とはいえ、お互いに仕事中である。
どちらかが休憩に行く途中、こそこそと話すだけだ。
帰りの時間もなかなか合わない。

何とかしたいなぁ、と思いながらお化け屋敷の最終日を迎えた。
明日から皆、散り散りバラバラになるという日。
バイトの皆で打ち上げに行くことになった。

よし、ここや。まずは友達から、と逸る心を抑えながら、
恵美ちゃんを待った。

ところが、なかなか出て来ない。

「乱蔵ー。何してんねん。行くでぇ」

「あ、先輩すんません、恵美ちゃん待っとるんです」

「あぁ?誰やそれ」

「誰って…幽霊役の子ですやん。恵美ちゃん」

そんな子は居ない、と皆が言うのだ。
考えてもみろ、今回のお化け屋敷のコンセプトは
スプラッターホラーやないか。
そんな純和風の幽霊が出るわけ無いで。

「いや、そやかて俺、毎日話してたし」

「はいはい判った判った。ネタはええから、さ、行くで」

それ以上、俺は何も言えなかった。
結局、恵美ちゃんは打ち上げには来なかった。
経営者に訊いても、そんな女の子は過去に居なかったという。


今でもはっきりと覚えている。
柔らかな可愛い声だった。

ああ、この記事を書いている最中に判ったことがある。


何故だろう。
どうしても顔を思いだせない。