「麻理ちゃん、いまのうちに逃げるよ」

「なんでよ。聖なる拳でトドメ刺しちゃるけん」

「ばか。ここには狼男も居るんだよ?それに、あのビクターって
執事も化け物に違いないだろ。あの二人相手じゃ、そんな
指輪効かないよ」
どうしてしまったのだろう、志郎が至極まともな事を言う。

「確かにその通りね、よし、今日の所はこれぐらいに
しといてやる」

ベイが体勢を整える前に、二人は部屋を駆け出した。
あと僅かで玄関である。

「よっしゃ、なんとか逃げられる」

「助かったね、麻理ちゃん」

「そうはいきませんな」

ああ、やっぱり。
その日何度目かになる台詞を麻理と志郎はユニゾンで言った。
玄関の扉を塞ぐようにビクターが現れたのだ。
その足元に、ジャックが居る。
「ベイ様には申し訳ないが、あなた達、このジャックの餌に
なってもらいましょう。さぁ、ジャック。満月を見よ。変身するがよい」

「ぐるるるる」
ジャックが唸り声をあげた。

「な、なによ。そんな声あげても怖くなんか無いわよっ!
どうせ変身したところで、仔犬ぐらいの狼が関の山でしょ」

「さてさて、それはどうかな?満月を見たら、狼になるとは
限らない。小さいままとも限らない」
ビクターがニコリともせずに言う。