「みつ…助けてくれぬか」

「信綱様、どうなされました…そのような怖い顔をなさりまして…」

「さればじゃ、お前のその顔を元にすれば、面を打たせてくれ。
おそらく見事な宝増の面が打てるやもしれぬ。いや、打てるに違いない。」

「そのようなこと…みつなどで宜しければ、どうぞお使いくださりませ」
信綱には今でいう模写の才能があった。
たちどころに宝増の面が仕上がる。

だが信綱はそこで行き詰った。
当然である。
己の前に座る女は幸せの絶頂なのだ。
だからこそ、宝増の面が打てた。
だが、痩女は打てぬ。
全ての悲しみを背負い、地獄を彷徨う女。
そんな女は信綱の周りには居なかった。
追い詰められた信綱が、鬼になるにはそれほど
時はかからなかった。

いつものように、信綱の小屋に向かったみつは、聞きなれぬ
声に足を止めた。
そろそろと窓から小屋を覗く。
みつがそこに見たものは、信綱と村の娘であった。
みつにも滅多に見せたことの無い微笑みを投げかけている。

小屋に飛び込んだみつは、娘を追い払い、
信綱に食ってかかった。
「どういうことでございますか、信綱さま。みつというものがありながら」


五へ