「伊藤さん…」
翌日、また、北村が携帯を持ったまま伊藤に呼びかけた。
不安気な様子だ。

「なんだ。どうした、またあいつか?」

「い、いえ違います。サクラの陽子からっす。
変なメールが来た、って。怖いから何とかしてくれって。」

「代われ。…陽子ちゃん?どうしたの」

出会い系サイト運営者にとって、サクラの女は何よりの財産だ。
特に、この陽子という女は、その巧みな甘えぶりとメール管理能力で、
何百人もの男達を騙していた。
真田加奈子にメールすると、つまりは、この女から返事が来るのだ。

「伊藤さん?おかしいよ、こいつ。コピーしてそっちに
送るから見てよ」
震えているのが声で判った。

「判った。あとで電話するね」
伊藤は北村に指示した。

モニターに現れたメールを見て、二人とも息を呑んだ。

『こんなところに君が居るなんてとても驚いた。
でもおかしいな、あの日確かに君は僕が殺したのになぁ』

『何であらわれたの今ごろ。どうしてほしいの僕に僕が君に
逆らえないこと知っているのでしょう』

『いやだいやだいやだ。もう君の想いどうりにはならない。なりたくない』

『もう一度殺してあげる、生き返らないように心臓取り出して』

『殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺』

その後は、延々と『殺』の文字で埋められていた。
伊藤はどんな相手でも躊躇無く暴力に訴えてきた男だ。
その男が今、経験した事のない汗をかいていた。