本棚から古い文庫本を取り出す。「羆嵐(くまあらし)」と「羆(ひぐま)」

の2冊だ。作者は吉村昭さん。奥付を見ると、昭和57年と昭和60年の発

行とある。40年余り前に買ったものだ。

 史実を踏まえ、淡々と書き進める吉村さんの筆致が好きで、作品はよく読

む。その一冊、「羆嵐」は大正4年に北海道内で実際に起きた出来事を描く。

わずか2日間で男女6人の命が奪われた惨事である。「日本獣害史上最大の

惨事」と本の紹介にある。

 その一部。村に入った羆を探す男たちは、ある民家から「こまかく砕く音」

がするのに気づく。吉村さんの筆はこう続く。

 「区長たちの顔が、ゆがんだ。音は、つづいている。それは、あきらかに羆

が骨をかみくだいている音であった」

 怖い。読みながらゾクリとしたのを思いだす。

 北の国から日々、クマにまつわるニュースが届く。文庫を書棚に戻しなが

ら、皆さんご無事にと願う。        (2025・11・14)