先日、イタリアのウォルター・バルビエロのコントラバス弓を手に入れた。
バルビエロは最近日本でも徐々に知名度が上がってる作者だ。
ヴァイオリンやチェロの弓は結構な値段の様だが、コントラバスの弓は希少で、恐らく、日本にはこれ1本しか存在しないだろう。
新作で、申し分ないデザインと性能を持つ弓だが、実は贅沢なことに彼の作った違うタイプの弓が2本あって、仲介者が「何れか好きな方を弾いて選べ。値段は一緒だ。」と言う事で持ち帰って自分の楽器でゆっくり試奏も出来た。
その際、自宅へ持ち帰る時に「珍しい弓があるんだけど?」と懇意にしている弦楽器専門店の社長へ電話を入れて見て貰ったところ「弓の作りとしてはこっち(僕が選んだ方)が断然良い。でも、私はこっちが気に入った」と僕が選ばなかった方を気に入った様だ。
僕が使った感じでは圧倒的に自分が選んだ方が良く、仲介者も「実は俺もそっちが気に入っていて、お前が選ばなかったら自分の物にするつもりだった」と言っていたので若干不思議だった。
先の弓を見せた社長は弦楽器のバイヤーとしてはプロなので、その勘は確かな筈で、何となくモヤモヤしていた物があった。
それで、自分がメインで使っていたJ.P ガブリエルと比較してみて「あ!」と思ったことがあった。
上がバルビエロで下がガブリエルだが、フロッシュから後ろの長さが全く違う。
実はその仲介者も僕も「イタリアンスクール(式)」と言う持ち方で、イタリアンスクールは親指の位置に特徴がある。
これに対して何と言うのかよくわからないが、仮に「フレンチスクール」と呼ぶとして、親指の位置が他の弦楽器と同じ場所の持ち方があり、コントラバスでも恐らくこちらの方が圧倒的に多い筈だ。
実はこのガブリエルはイタリアンスクールで持つと弓先にシルバーのチップが使ってあることもあってかなり重たく感じ、どちらかというとこちらの「フレンチスクール」の方がバランスが良かったので、こちらで持つことも多かった。
ところが、今度手に入れたバルビエロをこれで持つと何となくしっくり来ない。
実際に弾いてみても、あんなに扱い易かった弓がイマイチコントロールがし難くなる。
それで、最初の「あ!」なのだが、結局、弓の構造(バランス)が違うのだ。
バルビエロの方はフロッシュにも銀が張ってあり、フロッシュから後ろも長いので手元に重心が来る様に設計されている。
反面、ガブリエルの方は元々総黒檀なので軽く、フロッシュから後ろもそれ程長くなく、チップに銀が貼ってあるくらいだから明らかに弓先の方へ重心がある。
イタリアンスクールは弓の後方を持つ様になるので、当然弓は重たく感じる。
もし弓の後方、特にフロッシュより先の方が長ければ、多少後方を持ってもバランスが悪くならない。
逆に、フレンチスクールで持つと、まるでバロック奏法の様な状態となり弾きにくくなる訳だ。
そこでタイトルの様に、同じフレンチ弓でも、イタリアンスクールで持ちやすい弓と言うのがあるのでは無いか?と言う結論になったのだ。
それで、日本で流通しているコントラバスのフレンチ弓のフロッシュ付近の写真をネットで何本か見たところ、殆どはガブリエルと同じフレンチスクールの方が適している印象の弓だった。
それで、先の社長がこっちが良いと言った理由も分かった。
社長はフレンチスクールで持っていて、僕とは違う持ち方をしていたのだ。
もしバイヤーがフレンチスクールなら同じ判断をするだろうから、日本にイタリアンスクール向けの良い弓が入って来ない筈だ。
恐らく日本でイタリアンスクール向けの弓を手に入れるには、イタリアンスクールで弾いている奏者がやってるコントラバス専門店があるので、そこならバイヤー自身がイタリアンスクールなので、間違い無いだろう。
比較した2本に関しては、写真で見た感じではそれ程差が無い気がするし、今となっては分からないがその辺のバランスが微妙に違ったのかもしれない。
それ程回数は多くないが過去にフランス系のバザンやモリゾーなどの著名作家の弓を持って弾いた時にイマイチしっくり来なかった理由も分かった。
となると、このバルビエロのコントラバス弓はイタリアンスクールに適した弓と言う事になり、その手の弓は日本で購入するのは難しい為、良い弓に出会えた事になる。