コントラバスでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を弾くこと | iPhone De Blog

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今日、ブログ友達のヴァイオリニストの方が紹介していた動画

http://www.youtube.com/watch?v=lIbRcdD5lM4


ルーマニア出身の超スーパーコントラバス奏者C氏がモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を弾いている動画だ。


僕自身、この人のマスタークラスも聴講して彼の音を生で聴いたこともあるが、素晴らしい演奏家だ。


このヴァイオリン協奏曲に関しても、同じ楽器を弾いてる人間からすると「すごい」としか言い様が無いのだが、逆に「すごい」としか出てこない。


昔の僕だったら「あーこんな曲を自分も弾けたら良いな」と思っていたかもしれないが、今は全く思わない。


アマチュアではあるがそのくらいコントラバスのソロやアンサンブルには長年情熱を注いで来たので、知ってる人は随分変わったと思うだろう(笑)


今は、寧ろオーケストラに情熱を傾けていて、それも僕を知っている人からは「変わったね」と良く言われるし、本来なら順番が逆かもしれないが、やっとコントラバスの良さが分かってきたとも言えるだろう。

コントラバスと言うのは楽器のサイズも大きく、弦も太く、音域も低く、運動性も高くない為、元々「コントラバスの為に」書かれた曲が少ない。

その歴史の中で、多くのヴィルトーゾと呼ばれるソリスト達がコントラバス以外の為に書かれた曲を見事に演奏して来て、場合によっては本来の楽器と又趣きが異なる事で良さが発揮出来る曲もある。

特にチェロの為に書かれた曲のアレンジにはかなり肉迫している物もある。


例えば、師匠の取り組んでいるバッハの無伴奏チェロ組曲などコントラバスで弾いても立派に音楽として成り立っている演奏があると思うが、事、ヴァイオリンの様な小型楽器の為に書かれた曲は、曲を選ばないと「すごい」とは思っても「素晴らしい」と言う感想が出てこない。

フランクのヴァイオリン・ソナタなどはコントラバスで弾いてもかなり成功している演奏もあるし、チェロ・ソナタなどは名演奏も多い。


それは以前からもそう思っていたが、最近、チェロを弾くようになって益々そう思うようになり、コントラバスのソロを弾く事には全く興味が無くなってしまった。

実際に自分でチェロの音を出してみると、数十年弾いて、何とかそれなりに満足の行く音が出せる音域の音が数ヶ月で楽に美しく出せる事に愕然とする。


単なる1stポジションに過ぎないA線のCやDを軽くヴィブラート掛けながら聞こえてくる澄んだ音色が、コントラバスなら実音はその1オクターブ上となる為、背中を屈めて必死の思いで音を出さなければならないし、1音ならともかく、それでまともな演奏をする為には、普段やっている事とは全く別な練習を相当やらなければならない。


それなのに、悲しいかな、箱のサイズも弦の並びも弦長も弦の太さも全く異なるので、仮に1オクターブ上を弾いて音域が同じとしても聞こえ方が全く違う。


これも自分で違う楽器を弾いてみて初めて知った。


もちろん、C氏の様にコントラバスでも相当に弦高を下げて高い場所を弾きやすくし、楽器もチェロの様に構えて左手を楽にすることで最大限コントラバスのハンディを減らすChoiceはある。

それ以前に弦もオーケストラ用とソロ用と言う別の弦を張ることになるし、
僕もソロをメインで練習していた時期はそうやって弾いていたが、それでも、catalin rotaruの楽器を触らせてもらった時にあまりの弦高の低さに驚いた。

弓も非常に緩く張られていたが、恐らく、低い弦高で強く弦を押さえつけると指板に弦が当たる為それを防ぎ、その状態で駒に近い部分を弾いてクリアな音が出せる様にしているのだろうと思われる。

つまり最大限セッティングがソロ用のセッティングであり、オーケストラではそのまま使えないセッティングと言う事だ。

C氏では無いが、小型のコントラバスを態々作らせて5度調弦にしている人も居る。

しかし、コントラバスで、そこまでするならチェロを弾けば良いと今は思ってしまう。


やはりその楽器の為に書かれた曲はその楽器でやるのが一番で、そうで無くともコントラバスには向いていない曲もある。

逆にチェロを弾いていると、コントラバスのE線やA線での「ブン」と言う音はどう逆立ちしても出ないし、オーケストラでそう言う音を弾いていると「コントラバスで良かった」と思う。

ついでに言えば、小回りの効く楽器はその分、大変な事をやらされる(笑)

特に集団行動のオーケストラなど、いつ見てもヴァイオリンやチェロは大変だなぁ。と思うし、大変そうで、僕自身オーケストラでチェロを弾きたいとは全く思わない。

そう言う意味で、話は戻るが、ヴァイオリン協奏曲、特にモーツァルトの様な澄んだ音楽をやるならやはりヴァイオリンが一番だ。


如何な名手C氏でも、楽器の大きさまではどうしようも出来ない。


弦長が長く、箱が大きい為、響きが残りやすく、速い動きはどうしても「もっさり」とし感じがしてしまうし、幾ら指が回っても一度に取れる音の数も音の幅にも限界があり、到底ヴァイオリンには敵わない。


仮にゆっくりの場所でロングトーンを弾いても、5度調弦では無い為、本来ヴァイオリンで弾いている音とは聴こえ方も全く違うだろう。(もちろん1オクターブ下だし)

繰り返すが、実際にC氏の生の音も聞いていてコントラバスのソリストとしては世界でも高い位置にいると思うが、C氏をしてもやはり、パフォーマンスの域を出ないのだ。

昔、ロシアにアザルヒンと言うコントラバス奏者が居て、レコード時代に「熊ん蜂の飛行」や「チゴイネルワイゼン」などを出しているのを持っているが、こちらは若かりし頃に聴いても、やはり「すごいなー」とは思っても音楽として素晴らしいとはお世辞にも思えなかった。


もちろん、コントラバスでもソロを勉強することは大切だ。


オーケストラでソロを弾いている管楽器やヴァイオリンやチェロセクションが歌っている時に絶妙のタイミングでピチカートを入れたり、頭打ちをする為には、ソロを勉強している人とそうでない人では雲泥の差がある。

歌っている事とは関係なく、テンポで行って欲しい場合、絶対先に行って欲しくない場合など様々で、これは自分で歌ったことが無いと全く分からない。


楽器が弾けることと楽器で歌えることは違う。

オーケストラで長く弾いているアマチュアのヴァイオリンやチェロ弾きでも楽器で歌える事が出来る人は少ない。

ある意味、プロとアマチュアの大きな違いはここかもしれない。

だから、プロオケのオーディションにはコントラバスでも必ずソロがあるし、コントラバスの場合オーケストラスタディ(オケスタ)も非常に重要であり、オーケストラもプロの「仕事」と言う認識が高い国では、寧ろ、ソロよりもオケスタが重要視されているとアメリカ生活の長い師匠にも聞いている。

最近は日本のコントラバスのレベルも上がって、若い音大生などもコントラバスで素晴らしいソロを弾く子が増えたが、一方で、それを勉強しているのが何の為なのか分かっているのか心配になる。

単に指が回るだけではオーケストラでは仕事が出来ない。


やはりコントラバスが一番カッコイイのはオーケストラやアンサンブルでどっしりした響きや素晴らしいタイミングのピチカートを入れる時だ。と言うことにコントラバスを弾いて30年以上経って気がついたが、それでも、本来の楽器の良さに気がつく事が出来て幸せだったかもしれない。