昨日はコンサート | iPhone De Blog

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昨日はコンサートだった。


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山◯さんの名前は随分前から聞いていたが、これまで一度もその音を聴く機会が無かった。

演奏スタイルも全く知らなかったが、楽器も細身のイタリアンオールドらしく、本人も細身ですらっと立っている姿が中々カッコ良い。


この日のコンサートはプログラムが無く、本人が話をしながら演奏すると言うライブスタイルだった。

それ程雄弁と言う感じでは無いにも関わらず、山◯さんは、僕の最初の師匠である九◯交響楽団のYさんの後輩と言う事もあり、「(学生時代に九州出身のYさんが)言ってることが良く分からなくて、『くらさるーぜ』と博多弁で言われて、『誰と暮らすんだろう?』と思った」と言う話や先輩のYさん結婚式でクーセヴィツキーの小さなワルツを弾かれた話、ツアーの話などを交えて、観客はあっと言う間に山◯ワールドに引き込まれて行った感じだった。


今回のリサイタルはそのYさんプロデュースの様で、1週間程前に「客が30人くらいかもしれん」と心配されていた為、僕も宣伝したが、思ったよりも多くて安心した。

休憩無しの1時間ちょっとだったが、あっと言う間の時間で、小品が多かったからと言うのもあるが、話しを交えながらでも相当な曲数を全て暗譜で弾かれた体力、集中力、技術に驚嘆した。


演奏スタイルは、僕が勝手に呼んでいるが、ドイツ式で右手に特徴がある「芸大スタイルだ」


僕がこのジャンルに入れいてる人は、教授の永◯さんは当然だが、故セ◯チュリー首席の奥◯さん、東フィ◯首席の黒◯さん、現仙◯フィル首席の村◯さん、ケ◯ン首席の河◯さん、N◯K首席の吉◯さんなどがいる。


多少の違いはあるが、全員に共通するのは「右手を柔らかく使い、圧力では無く弓の量と面でコントロール」すると言う点。


特に、弓の面やスピードを積極的に可変して音色を作るのは特徴的で、その為、弓の動きが直線的では無い。


動きの中で腕の角度も変わるし、手首の角度も変わる、場合によっては一度のダウンボウやアップボウの中でフレーズによって接触面積とスピードを山なりに変化させてフレーズを作る。


格闘技で言えば、直線的に打撃をする空手に対して、基本的に円運動で構成される太極拳などの中国拳法と言う感じだ。


弓に力を加えて駒近くで弦を押さえ込んで楽器を鳴らすのでは無く、弓の量(スピード)で音を出す為、弦が良く振動して特に低音の響きが良く、タイミング良く掛かったビブラートとマッチすると非常に心地良く響く。


「空気を含んだ様な」と言う表現を故奥◯さんはされていたが、刻みでも立ち上がりがハッキリしたクリアーなタイプのアメリカンな刻みでは無く、弓が動き出して暫くして音が鳴り出すと言う感じで、その為、右手が若干先行して動くのだが非常に良く箱が鳴る。


山◯さんの奏法はまさにこのお手本の様な奏法で、フレンチボウの奏法にかなり近い部分もあると思っている。


フレンチボウの場合、端から、引っ掛けて弾く弓ではないが、ジャーマンボウの場合、弓元が引っ掛かりやすい為、特にアマチュアの場合は、それに頼って小手先で引っ掛けて音を出す人が多い。


それに対して、この奏法の場合、入射角は弦に対して90度では無く若干傾斜があり、又、面も薄く入って途中で角度を変えて広くしている為、ある意味、引っ掛かりやすいジャーマンのメリットを活かせてない感じもするが、反面、音の立ち上がりと終わりが非常に美しい。


山◯さんの演奏でも、特に音の終わりの美しさは印象的だった。


引っ掛けて音を出すだけの場合、弓の形同様に、結果が尻すぼみとなってしまうが、それをフラットにしているのがこの奏法だろう。


音の処理で言えば、ジャーマンボウの形状による自然な音のカーブに対して、イコライジングを掛けて特性をフラットにしていると言える。


話を山◯さんへ戻すが、とにかく「音色が美しい」と言う印象だった。


これは僕の師匠の石◯さんとは全く異なる美しさだが、特に、この奏法の特徴である中低音域の響きの美しさは、まさにコントラバス!と言う音色で、僕も学ぶ所が沢山あった。


フィンガリングも良く見ていると換え指なども頻繁に出てきて、かなり練られている感じだった。


ちなみに、左手に関して言えば、縦の動きを多用するのもこの奏法の特徴で、出来るだけ弦長が長い場所で押さえて(コントラバスの場合はG線を多用するが、同じ弦なら音色も変わりにくい)楽器の響きを作ると言うコンセプトなのだろう。


例えば、G線のAなどは単純に引っ掛けて弾くと「ガリ&ビヨーン」と言う感じで美しくないので、音色と言う意味ではD線で取る方が無難だが、右手のコントロールが出来ていればG線の方が押さえた場所からの弦長も長く、響きも断然良い筈だ。


しかし、その分、移動距離が大きいので音程を取るのは大変だが、山◯さんは全曲暗譜で弾かれて、新曲だと言われていた曲なども全て暗譜されていたので、恐らくソルフェージュ能力が非常に高い人なのだろう。音程、特にイントネーションが素晴らしかった。


コンサートは嬉しいことに大学オケのベースパートの学生さんが沢山来ていて、僕も顔を知っている大学オケのメンバーも顔が見えたが、色々感じて帰ってくれたことだろう。


最近は動画や録音で色々なタイプの奏者を見ることができるが、それでも、ライブで得られる物は大きい。


奏者の音楽そのものは当然だし、生で聴いた音のイメージは非常に大切であり、又、その音がどうやって出ているかを、じっくりと集中して見ることも出来る。


例えば、1回レッスン代を払って直接レッスンを受けるよりも、その人のリサイタルへ行って1時間でも2時間でもどうやって弾いているのかをじっくり勉強する方がはるかにお得だろう。


東京ならこのクラスのコンサートは頻繁に機会があるが、九州だと中々そのチャンスが無い。

しかし、馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない。


機会があっても単に漫然と聴いてるだけよりも、少ない機会でも自分で考える事は自分の演奏向上に繋がる筈だ。


昨日は、そう言う会場での、久しぶりに「初めて聴く人」のコンサートで、自分も学生時代に戻った様な感じの楽しいコンサートだった。