音楽は右手に宿ると言う言い方でも良い。
僕の好きな演奏家には皆、この言葉が当てはまる。
諸岡由美子さんの演奏を聞いて一番に浮かんだのが、やはりこの言葉だった。
僕はここ数年、コントラバスでチェロと同じ持ち方をしている為、多くのチェロ奏者の右手をYouTubeの動画は当然だが、ライブでも沢山見て来た。
その中でも間違いなくトップクラスの右手の美しさだった。
弓を持つ右手も僕の最も理想とする形ならば、そのしなやかな腕の動きも同様だった。
男性と違い、女性は肩を出して演奏される場合があるので、右手の動きは男性よりも分かりやすく、筋肉の動きを見れば実力もすぐに把握できる。
まるでデュプレさながら、アスリートの様な腕がしなやかに動きながらも、絶対に過負荷とならない様にコントロールされながらダイナミックレンジがコントロールされていく。
それも、左と右が絶妙にマッチしている為、弓が動き出す端から端まできちんと物を言ってるのが素晴らしい。
楽器のセットアップもエンドピンはカーボン、テールピースはツゲ系のやはり軽い物を使用していた様で、音作りのコンセプトがどう言う物かも何となく分かった。
只、テールピースと楽器を結んでる物が見た感じ金属製の様だったが、もしかするとチタンワイヤーにチューブを被せてある物かもしれないが遠くからでは分からなかった。
敢えて奏法として弓をぶつける以外は、単なる通奏低音を弾いてる時も常に丁寧な音作りがなされている。
録音というのは恐ろしいもんで、その様な「アラ」と言うのはすぐに分かるが、音楽業界で売れっ子チェリストだと言うのも頷ける。
僕は知らなかったが、映画「おくりびと」でモックンの吹き替えをやったのは諸岡さんと言う事らしく、今日も、その「おくりびと」の曲を弾かれた。
このコンサートは、実は今回の震災の翌日に予定されていた為延期となり今日を迎えたが、諸岡さんの素晴らしい音色を聞きながら、亡くなった多くの人々へのレクイエムの様に聞こえて、思わず目頭が熱くなった。
又、諸岡さんがソロの「リベルタンゴ」も、当然の様に素晴らしく、ソロとなると一段とのびのびと演奏されている様子を見ると、やはり、一度で良いからソロコンサートを聴いてみたいと思った。
しかし、一生懸命カスタネットを叩いてる諸岡さんの姿はソロコンサートでは中々見られない貴重なシーンだったろう。
つい諸岡さんの事ばかりになったが、主役のホンヤミカコさん、ピアノの飯田俊明さんも素晴らしかった。
オカリナと言うのがあんなに多彩で魅力的な音色だと言うのを初めて知ったし、吹かれているホンヤさんも本当にオカリナが好きなんだと言うのが良く伝わってきた。
思わず僕もオカリナを吹いてみたくなった。
オカリナと言うのは焼物で、各地の土を焼いて自分自身でオカリナを作られているらしく、沖縄の土で沖縄民謡を吹いたり、エクアドルの土でエクアドルの曲を吹かれていたが、それぞれに魅力的な音色だった。
又、ホンヤさん自身も非常にチャーミングな女性だったのは言うまでもなく、MCも非常に上手で会場を次第に惹き付けて行った感じだった。ファンが多いのも頷ける。
ピアノの飯田さんは、全体の音楽を支えているにも関わらず、表に出過ぎず、引っ込み過ぎず、と言う演奏を心掛けられていた様だ。
非常にレンジの広いピアニストで、打鍵楽器と言うくらい、叩いてしまえば後は楽器任せの様なピアノに関わらず、ダイナミックレンジが自在な「歌」との組み合わせで良く活動されていることからも、その多彩な幅に合わせられる素晴らしいテクニックと音色の持ち主だと言う事がよく分かる演奏だった。
鍵盤ハーモニカとピアノを同時に操る曲があったところからも、非常に器用な人なのだろう。
3月から楽しみに待った甲斐があったコンサートだった。