ラヴィリティアの大地第53話「彼らの小さな抵抗」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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エオルゼア史上“最も人を憂う国”と称される小国ラヴィリティア城内の『血族の間』に飾られた歴代国王の肖像画を目の当たりにした主人公オークは、ラヴィリティアの総帥・ハーロック卿から自分に突き付けられたラヴィリティア国王世継ぎとしての立場からも目を背けるように顔を俯かせたまま一切顔を上げられずに居た。するとそこへオーク達が入ってきた後方の扉が、またゆっくりと開きオークの従姉妹にあたるハンナ・ラヴィリティア王女が静かに入ってきた

「…オーク?どうかしたのか、ハーロック卿もこんなところへ呼び出して何を…」

ハンナ王女は俯くオークとその姿を見守っていたハーロック卿に違和感を覚えつつ、部屋の奥へ進むと二人に後ろにあった見覚えのない肖像画が目に止まる。一瞬息を呑むハンナ王女。その様子に彼女も知らなかったのかとオークは心の中でひとりごちた。そのハンナ王女の様子を確認したハーロック卿は静かに踵を返しハンナ王女と入れ替わりで『血族の間』から出ていった。肖像画から目を離せないで居たハンナ王女は僅かに顔を曇らせながらオークへ向き直る。先に言葉を発したのはハンナ王女だった

「オーク、大丈夫か?」
「…」

オークはハンナ王女の問い掛けに答えない。掛けた言葉に一切反応を示さないオークへ、彼女は更に歩み寄りオークの背に手をかけて尚も声を掛け続ける

「オーク…?」
「エンリック殿に謝らないと…」
「!」
「ハンナ、早くエンリック殿に謝らないと…彼は今どこにいる」
「オーク待て…!」

立太子宣告を受けた日からオークもハンナ王女もお互い顔を合わせては居ない。オークはハンナ王女に会った途端、彼女の婚約者としてお披露目が決まっていたエンリック卿の名を口にして堰を切ったようにハンナ王女を捲し立てた。それを王女が諌める

「オーク!しっかりしろ、こんな時まで何を言っているんだ。いま一番苦しい思いをしているのはお前だオーク」

やや狼狽したオークはハンナ王女に撫でてもらった背を翻して部屋を出ていこうとする。取り乱すオークを必死に宥めながらハンナ王女は彼に言葉を続けた

「エンリックなら大丈夫だ。あいつなら解ってくれる、しばらくは心細い思いをさせるが私がハーロック卿を説得しよう。さすがにこのままというわけにはいかない、国も乱れてしまう」
「だけど…!」
「落ち着け、オーク。私がなんとかする、大丈夫だ」
「ハンナ…」

ハンナ王女は今にも泣き出しそうなオークに手を伸ばして彼の垂れる頭を自分の肩口へ抱き寄せる。オークとハンナ王女は仮の婚約者同士だったがそれは年端もいかぬ頃、城の中で度々顔を合わせながら婚約者というよりも兄妹のように一緒に育ってきた。そして明るみになった血縁同士、家族のように体を寄せ合った。オークの独り言が『血族の間』の床に滑り落ちる

「一体なんでこんなことに…」
「オーク…」

オークの最後の言葉にハンナ王女は眉を寄せ彼を抱き締めたままオークの体の隙間から覗く肖像画を盗み見る。自分の弟のように可愛がってきたオークによく似る、年齢も異なり猛々しい顔付きをした故ラヴィリティア王のその肖像画をただ黙って見つめるより他なかったのであった。


オークとハーロック卿との出来事から数日後、オークの妻でありオークがリーダーを務めていた冒険者クランBecome someone(ビカム・サムワン)の回復士(ヒーラー)クゥクゥ・マリアージュは、その日ラヴィリティアの城下町にある凱旋門広場へ来ていた。先日、冒険者クランのお抱え出入り業者兼情報屋ウォルステッドという男からオークがハンナ王女とこのまま結婚させられるかもしれないと言われたからだ。水の都リムサ・ロミンサのメルウィブ提督からお墨付きをもらった冒険者クランとはいえ、一つの国を揺るがすことは出来ない。だがそれでも何かをしないと“抵抗の意思が無い”と小国に捉えられかねないとして、クランメンバーの天使ケイ・ベルガモットと木工師兼槍術士のルフナとクゥの三人でオークに会わせてほしいとラヴィリティア側に伝えに来たのだった。しかしオークとクゥの婚姻報告をした時とはうって変ってラヴィリティア国内は物々しい雰囲気に包まれており、ラヴィリティア城内はおろか城下町に入ることすら許されなくなっていた。前述のウォルステッドの言っていた通り、クゥ達クランメンバーの面々はラヴィリティア側に顔を覚えられてしまっていたのだった。それでもクゥ達は辛抱強く城下町に入るための小さな門の前でラヴィリティア衛兵達と押し問答を繰り広げていた

 

 



「頼むよ、通してくれ。俺達は自分のクランのリーダーとしてのオークに会いたいだけなんだ!」
「無駄だ、帰れ帰れ!お前たちは入国の許可が出ていない。出直すんだな」

衛兵に直接交渉をしていたのは木工師のルフナだった。天使の末裔(ラステル・アンジュ)と言われる弓術士のケイも一緒に食い下がる

「僕はエオルゼアのラステル・アンジュ、天使だよ!僕は入れるでしょ!!」
「はあ?どこにそんな証拠がある、帰れと言ってるんだ!」
「どうしよう、ルフナ…私たちの話をぜんぜん聞いてくれない」
「諦めるなクゥ、絶対オークに会うぞ。通してくれるまで粘ろう」
「うん…」

そこから三時間ほど、その日は衛兵と揉めるもやはり入国は許されなかった。このまま居座るならクゥ達の所属するグランカンパニー盟主達に通報すると言われてしまい、メルウィブ提督たちに迷惑はかけられないとそのまま大人しく引き下がるしかなかったのだった。


クゥ一行は仕方なく自分達のクランを置く森の都グリダニアの冒険者居住区ラベンダー・ベッドの家へ、肩を落としながら戻って来る。ラベンダーの自分達の家が見えた時、丁度庭先で何かを話している女冒険者オクーベル・エドと斧術士で獣人のオウ・クベルニルがクゥ達の目に留まった。ただならぬ様子にクゥが小走りで二人に近づき声をかけた

「オクベルちゃん!どうかしたの、二人とも。何かあったの…?」
「あ、クゥ…それが」
「え?」
「たった今おまえ達と入れ違いで、これをラヴィリティア兵士から手渡されたんだ」
「これ黒渦団の制服だ…もしかしてハンナさんの婚約式発表の時オークが身に着けてたもの?オクベルちゃん…」
「ああ、そうだクゥ」

オクベル女史に手渡されたオークの黒渦団の制服を、クゥは自分の腕から見つめる他なかった。クゥのすぐ後ろに居たケイとルフナも顔を曇らせてお互い顔を見合わせた。オクベルは最後にクゥにこう言った

「それからラヴィリティア側から黒渦団宛に、オークが黒渦団から退団する旨の正式書面が届いているそうだ、クゥ」
「まさか…だよねオクベルちゃん」
「クゥ、俺が黒渦団へ直接確認しに行った。…相違なかった」
「冒険者の仕事も色々忙しいのに、オウ、…ごめんなさい」

水の都リムサ・ロミンサにありオークが小隊を持つ通称リムサの自治部隊『黒渦団』へ、事の次第を確認しに行ってくれた獣人オウ・クベルニルにお礼を言うことが出来ずただただ謝ることしか出来なかった。新たな問題の幕開けにクラン、ビカム・サムワンは不穏な空気が立ち込める。オークはきっと大丈夫、クゥのそんな根拠の無い自信が少しずつ、音を立てて崩れていくようだったー。


(次回に続く)

 

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