ラヴィリティアの大地第44話「対等な友人」中編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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「僕は戦闘において嘘はつかないよ、良いとこ大怪我だけどやっぱり死ぬかな。そうだねぇ、ストレスで最大限の力を引き出せない不器用なキミと絶妙なバランスを保ったままここまで来てしまった優秀クランをなんとか支えてるのは圧倒的なパワーを誇る前衛タンクだろう。で、そのタンクが回復士のヒーラーであるクゥクゥをちゃんと守ってるけどタンクが倒れたらどうなるかな。だからタンクかヒーラーの彼女が」
「もうやめてください、充分わかりました」

オークは半ばローラの言葉を遮るように会話を止める。ローラはいつの間にかハーブティーを見つめていた俯き加減な視線をオークに戻し、上半身をテーブルに傾けて頬杖をつき微笑を顔にたたえる。次に口を開いたローラから出た言葉はオークにとって意外なものだった

「オーク、一度僕のフリーカンパニーに顔を出しなよ」
「なんで…」
「だって君、本当は今よりももっと強くなりたいと思ってるでしょう?クランメンバーを見殺しにできない優しい奴だし、だったら話は早い。僕のカンパニーで君を鍛えてあげるよ、君の緊張感の足りなさもね」
「行きません」
「君は絶対僕のところへ来るよ。もう一度言うね、君はいつ何刻も強く強く在りたいと願う人だからだ」

いつの間にかさらりとテーブルに置いたハーブティーのお代を最後に、ローラは真っ直ぐカフェの扉に向かう。片手で扉を開いて肩越しにオークへ声をかけた

「僕のカンパニーの場所はオクベルに聞いておいで、ウルダハで君を待つよ」

そして振り向くことなく眩く光る、扉の向こうにある新しい世界へローラは姿を消した。オークはその姿をその場で立ち尽くしながら見送る他無かったのだった。





一方その頃、先程のローラとすれ違った女冒険者オクーベル・エドと噂になっていた回復士であるヒーラーのクゥクゥ・マリアージュはラベンダーベッドの家で自家製ハーブティーを啜りながら呑気にティータイムをしていた。先に口を開いたのはローラと対等な力量を有したオクーベルだった

「ローラがああいう奴だったからいいが人を簡単に自宅に招き入れるなよ、クゥ」
「だってオクベルちゃんを探してるって言ってたから。オクベルちゃん、いつも疲れてるって言って色んな人から逃げてすぐどっか居なくなっちゃうでしょう?そういうところだよ」
「う…」
「それに最初に声をかけられたときに『ごめんね』て言われたの、ただのナンパなら先に謝らないよ。だから本当にオクベルちゃんに会いたかっただけなんだなって」
「クゥ、おまえ見てないようで人をよく見ているよな」
「オクベルちゃんひどい、これでも私も冒険者なんだよ」
「お前が言うのか、クゥ」

そう言って自身の胸を片手で軽く叩くクゥを、いつも自分が口にしてるであろうセリフ回しで冒険者アピールをされたオクーベルは口の端を軽く上げてやれやれと軽く笑った。オクーベルが再び口を開く

「ローラはちょっと名の知れてるやつなんだ、まあ見てくれも女だし中身もああだしな」
「オクベルちゃんもローラさんが男の人なのは知ってたんだね」
「私はどちらでも構わないが、まあ私は男でも女でも体にベタベタ触れられたくないから最初は警戒してたんだがな」
「オクベルちゃんから見てローラさんはどういう人なの?」

クゥは目を細めて穏やかにオクーベルに問うた。するとオクーベルは一点を見つめて静かに口を開いた

「ローラは現実が見えてる奴かな」
「現実?」
「そう、現実。普通冒険者って様々装うところがあるだろう?それが一切ない。潔い。あいつは喋り方すらあんなだけどなんていうかな…男とか女とかそういうものに囚われずにちゃんと色んなものが平等に見えている、そんな気がする。それは人の事を対等に見られるということだし人権を尊べるやつができることだ。私はそういう所が気に入ってる、あと冒険者としての強さもな」
「そっか。対等なお友達なんだね」
「冒険者としてのキャリアは私のほうが長いかもしれないが戦闘技術において私よりあいつのほうがぜんぜん能力が上だし、正直真正面からあいつとは戦いたくない怖いし。」
「そうなんだ」

めんどくさそうに言うものの恐らく気恥ずかしいのもあるのだろうと、なんの気なしにそう言ってのけるオクーベルにクゥは楽しげに笑った。しかしオクーベルは最後に穏やかとは言い難い、また小さい嵐が来るような言い回しでこうも付け加えた

「あとあいつはグリダニアの隣国アラミゴの地で発展を遂げた戦闘術流派を汲む戦闘スタイルなんだ。二つ名も付いてる、“巉巌(ざんがん)のローラ”」
「巉巌…切り立った山、かぁ」

クゥは最後に呟いたあと、ローラと出て行ったままなかなか戻って来ない青年リーダー、オーク・リサルベルテの姿を探すように麗らかなグリダニアの陽射しが舞い込む窓の外を心配そうに見やるのだった。


翌日オークとクゥは冒険者依頼の兼ね合いでたまたま二人だけで行動していた。二人で帰路に就きそれぞれ馬の様な移動の足である『チョコボ』という大鳥から降りてラベンダー・ベッドの家のチョコボ厩舎にチョコボを入れようとしていた。今日は朝からオークがなんだか上の空なのがクゥはずっと気になっていたが聞くに聞けずにいた。クランの仲間として何か相談してくれるまで待っていようかとも思ったがやはり気になるは気になるので視線を下げて思案してたが意を決してクゥはオークに声をかけた

「オーク、あのね…」
「うわ、やめろって!急にどうしたんだ」
「え?」

突然声を上げたオークにクゥは驚いて目を見張った。オークという自分の主人の、心になんだか暗い影を落としてるものを察してチョコボやオークの召喚獣カーバンクル達がオークの頰を舐め始めた。いつの間にかオークの足元には皆交代で世話しているタイニークアールの猫のような幼獣までもがすり寄って来ている。オークは動物たちをなだめ始める

「わかった!わかったから、よしよし。いつもありがとな、お前たちよく頑張っているよ」
(皆オークが大好きなんだ…いいなぁ)

オークが自分の愛鳥やクゥの愛鳥にも親愛のキスをして彼らを慰めた。オークのそのいつにも増してセクシーに見える姿がクゥにはときめいて見えていた。正直チョコボ達が羨ましい、自分だって励ましたいしお返しのキスもほしい。いっそ自分がチョコボにさえなってしまいたいと本来の目的を忘れて彼女はぼうっとオークを見つめ続けていた。そのクゥの様子にやっと気がついてオークは気遣って声かけた

「どうかした?クゥ」
「あ、ううんいいなって思って!」
「うん、何が?」
「! えっと…」

クゥはしまったと気付いた時には心の声が漏れてしまっていた。どう取り繕うかと迷う中、捻り出した言葉はクゥにとって都合の良い言葉たちだった。クゥが恐る恐るオークに口を開いた

「なんか人に褒められるっていいなって思って。私も…だ、誰かに褒められたいなって」
「!」

クゥの言葉の“誰か”にオークはすぐに察しは付いたがそれを口にはできない。それはきっとオーク、自身の事を指しているのだろうと。オークは一瞬躊躇う素振りを見せるもすぐにクゥに手を伸ばした。こういうのは躊躇うと何かを肯定してしまう事に成りかねない、オークはそう直ぐ様判断しクゥの頭を撫でてやった

「クゥもよく頑張っているよ、いつもクランの俺…達の為に頑張ってくれてありがとう」
「! うん!こっちこそありがとう」

クゥは褒められたいと言った時から顔が俯き加減になっていたからオークが自身に手を伸ばしたことに気が付かなかった。オークに撫でられると同時に彼女は目を見開き、自然な流れで耳にかかっていたクゥの髪を彼が怪しくとき透かしそっと耳にかけてやった。クゥはぱっと顔を輝かせてオークにお礼を言ってラベンダーの家にそそくさと引っ込んでしまった。きっと照れくさかったのだろうとオークは思った、と同時に彼女の可愛いらしい甘い強請りがオークの心を掴んで離さなかった。一日中どうやったら本当の意味でクランを維持することが出来るのだろうとオークは思い悩んでいたのにクゥを撫でたことで一瞬で悩みが吹き飛んでしまった。仲間を守りたいという気持ちはいつの間にか“彼女を守りたい”にすり替わってしまっていた。しかし、それではいけないのだとオークはローラのところへ行って一度話だけでも聞いてみようと思い直すのだった。


(次回に続く)

 

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