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★あらすじ…ウルダハ国の依頼で王家の大切な荷を守りきったオーク達は女王の晩餐会に招かれた。そこでオークは育ての義理の父親に再会する
王家晩餐会の和やかな喧噪とは裏腹に、後姿からでもわかる威厳を放つ貴族の男性はオークの姿を見咎めた瞬間ため息をついてぼやいた
「なんだ、お前か。オーク」
「お義父様…」
「ラヴィリティアの人間らしき人物がウルダハ王家の国宝を守ったとは聞いていたがまさかお前とはな」
「…ご無沙汰しております、義父上」
オークは義父上と呼んだ人に深々と頭を垂れた。その仕草は長い間会えなかった親子の会話ではなかった。まるで他人行儀のようなやり取りが続いていく
「お前が家を出てからむこう良くも悪くも噂が聞こえないものだからてっきり放蕩者にでもなったのかと思えば、きちんとラヴィリティアの為に尽くしているようだな」
「はい。長らくお伝えできなかったのは取り立てて義父上にご報告できる実績がなかったためでした、申し訳ありません」
「…まあ、よい。今後も祖国の為に励め」
「はい」
「いいか、お前は正統な血ではないがラヴィリティア王家に連なる貴族リサルベルテ家の出自だ。リサルベルテ家の名を穢すような振る舞いは一切するな。国の為に生き、心を捧げよ」
「はい、わかっております」
それが王家に貴族たるものの務め。それはオークも解っていたが、その昔感じていた胸の奥が締めつけられるような言いようのない黒い感情が、にわかに浮足立っていた心に冷水を浴びせられた気がした。義父と短い会話を交わした後、後方からオークと歳の変わらないふたりの若き貴族が現れた。その内の1人が口をひらく、
「なんでこんなところにお前がいるんだ」
「アデルお義兄様、イゾルお義兄様」
「せっかくの宴なのにお前の顔を見たら興が削がれるだろ、用が済んだのなら宮殿に長居するなよ」
「やめろアデル。騒ぐな」
「いきましょうお父様、あちらにカヌ・エ・センナ様がおいでです。ご挨拶に伺わねば」
「わかった」
義父を促した後、アデルと呼ばれたオークの義兄はオークの耳元で残酷な言葉を放つ
「宮殿でお前に兄と呼ばれるなんて虫唾が走る。もう二度と俺達に近付くなよ」
二人目の兄とは目も合わなかった。オークは唇を噛み締め、言い返すことも出来ず無言のまま三人の後ろ姿を見送るほかなかった。仲間の元に戻らなければ、オークはかろうじて動く足を反対に向けて歩きだすのだった。
「とうとう動けなくなっちゃった…」
宮殿からどのくらい離れているかわからない、ケイを探していたクゥクゥは月明かりの見える小さな広場で途方にくれていた。余所行き用の履き慣れない靴で足を痛め、クゥは腫れている箇所を擦りながら空を見上げた。吹き抜けの天井からたくさんの星が見える
「でも楽しかったな…」
今まで農民として生きてきた人生の中で最も甘美な瞬間だったとクゥは思った。何よりもオークに女の子として扱われたことがただ単純に嬉しかった
「オークって…」
「クゥ?」
クゥが何かを言いかけたその時、皆の側に居ないクゥを探しにきたオークが現れたのだった
「皆の所に居ないから探しにきた。皆気にしてたよ」
「ごめんなさい、ちょっと体が火照っちゃって。涼みに来てたら迷っちゃって…」
クゥは足の痛みを悟られまいと自分の足をオークから隠した。それをオークは見逃さなかった
「足を痛めているね」
「あ…」
「ちょっと待ってて、そこの錬金術師ギルドでなにか冷やすものを借りてくる」
「…ありがとう」
程なくしてオークは戻ってきてクゥの足元に跪いた。クゥは慌ててオークを制した
「待って、自分でやるから…」
「いいから、任せて」
いつも優しいオークが少し強めな語気でクゥを嗜めた
「慣れてるんだ、小さい頃よくラヴィリティアの宴で足を痛めた女の子の手当てをしていた」
「そうなんだ」
夜のギルド前は人数が少ない。静かな広場でクゥの靴紐を解く音だけが響いた
「曲がりなりにも貴族だったから一般的な教養もダンスも沢山習わさせられたけど、あまり人に関わるなと義父達言われて壁で宴を黙って見てた。そしたら女の子たちが動けなくなってるのをよく見かけたんだ。だから手当てをするのは俺の役目だった」
「オーク…?」
クゥはオークが話している内容に引っかかりを覚えた。しかし次の瞬間、ひと通りの手当てが終わったはずなのにオークの手がクゥの足首から離れないどころか…
(私なんでオークに足を撫でられてるの…!?)
オークに足を撫でくりまわされている、その事実にクゥはパニックになっていた。一体どういう状況なのか、一切声の出ないクゥに気づかないオークはそのまま話し続けた
「女の子は本当に強いな。こんな小さな足なのに我慢してずっと1人で立ってる。俺には真似できない」
オークは私を見ていない、クゥは自分の足を擦りながらもどこか遠くに意識を向けて上の空なオークに気がついた
「俺にはこうやって手当てをしてあげることしかできない…」
自分には何もできない。オークにそんな思いが込み上げた時、クゥが咄嗟に声をかけた
「そんなことないよ…!」
オークはハッとして自分が余計なことを口走ってしまったことに気づいた。クゥは固まるオークに続けた
「私、今日楽しみにしてたけど実はものすごく緊張してて…でもオークが手を引いてくれたから頑張れたしすごく楽しめた。すごく嬉しかった。私はオークにずっと助けられてるよ、きっと助けられた女の子たちも嬉しかったはずだよ。だから…」
そんな顔しないで、いつものように笑って。クゥはそう思った
(お願い、気持ち届いて…)
クゥの言葉にゆっくりと顔をあげたオーク、驚きながらも瞳に輝きが戻ったようにクゥには見えた。そしてオークはまるで泣きそうな瞳で安心したかのようにクゥに笑いかけ、
「そうか、良かった…」
そう言葉を噛み締め幸せそうに瞳を伏せたのだった
クゥは言葉が届いたことに安堵する。しかし未だ足を擦られている状況は変わらず、焦った声でオークに伝えた
「だから、その、足を…離してくれると…」
「あ、ごめん」
軽い。オークはまるで気づかなかったと言わんばかりに何も意識せずクゥの足を離した。オークは立ち上がりクゥを立たせて促した
「そろそろ広間に戻ろうか、エスコートする」
「うん、皆でラベンダーベッドに帰ろう」
オークとクゥは手を取り合い微笑みあってその場を後にしたのだった。
(次回に続く)
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