ラヴィリティアの大地第12話「クゥクゥの為に」後編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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タムタラ墓所、そこは洞窟に接続する何の変哲もない共同墓地だった。絶えず集まる魔物たちを冒険者がくる日もくる日も一掃して秩序を保つのがもはや日常と化しているこの場所で今まさに死闘が繰り広げられていた。人ひとりが吹き飛ぶ攻撃にまたも足の踏ん張りがきかず後方へと飛ばされる前衛のタンク。その隙をつかれ攻撃に転じる者たちが小さくないダメージを受けて続けていた

(タンクの人の回復が全く間に合わない、一度一度の攻撃が私達のレベルで受けても支障がない攻撃の重さじゃないんだ)

回復を司るヒーラーのクゥクゥは回復をし続ける最中に気付いたのだった

(隙をみて攻撃したいけどタイミングができない)

討伐チームから上がり続ける悲鳴。

(どうしよう、どうしたら…!)

しかめたクゥの顔をとめどなく汗が流れ落ちた。



獣人オウの足である『チョコボ』に跨りクゥの危機を憂えたケイとオークは、タムタラ墓所の門を目に捉え、チョコボから飛び降りた。そこへ行く手を阻むように蠍に似た魔物が二人の前に飛び出してきた

「こいつの相手をする時間も惜しいな」
「そうだね」

オークの独り言のようなぼやきにケイもうなずき弓を構えた。しかし次の瞬間、魔物は雄叫びを上げて二人の間を突き抜けるように走り出した。二人は驚いて後ろを振り向くとそこには魔物を挑発するように斧を振り上げた獣人オウと、そのさらに後方から攻撃魔法を打ち込む女冒険者オクーベルの姿があった

攻撃の手を緩めることなくオクーベルが叫んだ

「ここは私達に任せて先に行け!」

獣人オウも続いて叫ぶ、

「俺たちも後から行く!」

信じられない光景に目を丸くするもありがとうと短く告げてオークとケイは墓所の中に駆け込んだのだった


クゥ達はいよいよ前衛タンクではなく攻撃手である残りの二人に、墓所主ガルヴァンスの猛攻が襲いかかるようになった。こうなってくると回復士であるクゥの手立ては回復一本になり攻撃に転じることはもはやゆるされない

(あと数分で全員の体力が尽きちゃうー、)

クゥの注意力が散漫になったわずかの間にガルヴァンスがタンクを押し切りクゥにめがけて触手を振りかざした。当たる、そう感じてクゥが目を閉じかけたとき聞き覚えのある声が後ろから響いた

「行け!カーバンクル!!」

巴術士(はじゅつし)と呼ばれる人の、宝石のように青く光輝く召喚獣カーバンクルがガルヴァンスの顔面を蹴り上げた。それに不意を突かれたガルヴァンスが触手の速度を落とした隙に、クゥは自分より大きな誰かに後ろから抱きかかえられそのままガルヴァンスの攻撃射程距離の外までずり下げられた。この体温にも心当たりがある。クゥは体に覚えていた熱に確信を覚えた。この人はー、

「君は本当に無茶をするなぁ」

緊迫した状況とは裏腹に、ため息混じりの中にも優しさを宿した声の主がクゥを腕の中から解き放ち振り返ることなくガルヴァンスにしっかりとした足取りで近づいていく

「リミットブレイクを使うんだ」

駆けつけたオークはクゥを冷静に諭した。リミットブレイク、それは一人の冒険者にエネルギーを集めて該当者の能力を上昇させる必殺技だった。回復士が使えば全員の体力が戻る。青ざめたクゥの顔に闘志が戻った瞬間だった

「任せてください!」

オークが勝利の笑みを称えている、それが彼の後ろ姿からでも感じ取れた。クゥはその場にいる全員に届くよう叫んだ

「リミットブレイク!!」

駆けつけたオークとケイ、そして限界だった冒険者たち全員の体力が回復する。それに合わせたかのように後を追いかけてきていた獣人オウと女冒険者オクーベルが肩を並べた。これで8人。攻略に必要な条件が満たされたのだった。オークが声を張り上げた

「皆、落ち着いて。これで人数は足りた、必ず仕留められる」

事態が次第に好転していく。一同がガルヴァンスに攻撃の手を緩めず各自の能力を一斉に叩き込む

オークは回復技をかね備える巴術士。時に回復役に周り、一人で回復につとめていたクゥをサポートした。ダメージを深く受け始めたガルヴァンスは仲間である悪魔インプを呼び寄せる。オークは続けて指示を出した

「攻撃に周る者は少しづつ前進、ガルヴァンスを中心に仲間のインプ達を真ん中に追い込むんだ!」

ケイは弓の範囲攻撃を操りインプ達を逃がすまいとガルヴァンスの元へ追い詰める。オクーベルも重い魔法を一撃一撃丁寧に打ち込みゆっくりと前進した。前衛を務める獣人オウともう一人のタンクはガルヴァンスのヘイトを集めて皆への注意力をそらし続けた。ガルヴァンスの周りがインプで固められ輪になったところで再びオークが叫んだ

「リミットブレイク…!!」

今度はオークのリミットブレイク。無数の半円の光がガルヴァンスとインプ達を切り裂き瞬く間にその全てが消し飛ぶ。直径10メートルの範囲攻撃で大ダメージを与える巴術士のリミットブレイクが見事に炸裂した瞬間だった

「や…、たあぁぁっ!!」
「倒したぞ俺たち!!」

先行していたクゥ一行の冒険者たちが次々に勝利の雄叫びを上げた。クゥはそれを見届けてその場にへたり込んだ

「よかったぁ…」

誰も死なせずに済んだ、クゥは心から安堵した。その様子を後から駆けつけたオーク達は暖かい、ため息混じりで彼らを見やったのだった。


「こんな怪我までさせてごめんなさい」
「手当はもういい、助かった」
「でも…」
「皆が無事ならそれでいい」

クゥは1番前で戦い痛手を追った獣人オウの手当を熱心に施していた。クゥを連れてきた冒険者たちは後から駆けつけてくれたオーク達に散々頭を下げてグリダニア市街に戻っていった。此度のタムタラ墓所の危険性を他の冒険者や街の顔役であるカーラインカフェ、店主ミューヌへと伝える為に。オウの手当てがあったオーク達はタムタラ墓所から近い冒険者居住区といわれるラベンダー・ベッドの一角の小綺麗な一軒家に腰を落ち着けていた

「街よりも近くて助かったな」

オークはそう言いながら壁にもたれかかり、この家を間借りさせてくれた女冒険者オクーベルが連れてきたのであろう行商人風の男を振り返った

「皆さんお疲れのようでしたから。急場しのぎで申し訳ないっす」
「いや、十分だよ」
「ありがとうございます」

クゥも合わせてお礼を述べた。オークはその場にいた全員を見回して言葉を続けた

「ここにいる全員の力があったから彼女を助けることができた、本当に感謝している」
「僕はお姉さんが心配だったんだよー」

ケイは自らクゥを助けにきたことを主張した。オクーベルが口を開く、

「たまたま街に居たから駆けつけることができただけだ。間に合ってほっとした、私じゃなくても駆けつけた者が居たじゃないか」

オクーベルは自嘲気味にそう言ってオークを見つめ、オークははにかんだ。いつだかと同じ微妙な空気が流れる。以前とは変わり互いに言葉がうまく出てこない、そんな様相を体していた。その沈黙を破るようにケイが突然喋り始めた

「これからもみんなで一緒に居ようよ」

一同は視線はケイに集まった。ケイは話続ける

「帽子のお姉さんはウルダハでときどき周りを見回してた、誰かを探してたんでしょ」

ケイの言葉にオクーベルはぎょっとした

「それからお兄さんもカーラインカフェのミューヌさんに何回もお姉さんの様子を聞いてた。僕知ってるよ、心配してたんだよね」

オークも声が出そうになるほど驚く。まるでクゥに知られたくなかった、というように。顔の上げられないオークとオクーベルがクゥはにわかに信じられず交互に見つめた。ケイは最後に獣人を無言で見つめ、オウは小さくケイに頷いた

「みんなもう気づいてるでしょ、お互いがお互いに必要だって。僕はみんなと一緒にいたい!一緒に居ようよ」
「ケイさん…」

ケイの名前を呼びクゥはそのまま黙りこくる。クゥの膝下に駆け寄ってケイは懇願するようにクゥを覗き込んだのだった。しばしの沈黙を獣人オウが最初に破った

「賛成だ。俺はヒーラー殿をずっと探していた、いよいよ独りでのダンジョン攻略が限界だった。クゥクゥ殿の力を借りたい」


「! 私でよかったら喜んで力になります」

これでお礼ができる。クゥはそう感じて快く承諾する。するとそれを皮切りに、帽子の彼女と呼ばれるオクーベルも観念したようだった

「そこまで言い当てられてしまっては隠しようがないな、私も行動を共にしよう。君が心配でならないからな」
「オクーベルさん…」
「オクベルでいい、これからは仲間なんだから」

そう言ってオクーベルはクゥに微笑んだ。そしてタイミングを見計らったように全員の視線が今回もエースであった青年オークに集まった。その視線に耐えかねるようにオークはクゥを一瞬、瞳に写して目を伏せ小さくため息をつきながら言葉を絞り出した

「…俺はある目的の為に冒険者になった。その目標が達成されたらいち早く抜けるかもしれない、だけど」

オークは皆をしっかり見据えて力強くこう答えた

「それでも良かったら今は一緒に戦おう」

オークは最後にクゥを見つめて頷いた。彼女に笑顔が咲き誇り、ケイは大喜びしたのだった。瞼(まぶた)を下ろした獣人オウは彼らの喜びの声に心地よく耳を傾け、その様子にやれやれと安堵の息をついたオクーベルは暖かい笑みを浮かべ続けたのだったー。

(次回に続く)

 

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