てんやわんやの完全閉店セール。
その前後に人生の師であるおふくろの
認知症がひどくなってきた。
たとえば、デイサービスに行っておやじが段差のある
ところで若い介護師の女性から手を引いてもらう。
それを見たおふくろは焼きもちを焼いて
くるってしまうのだそうで、引き取ってくださいと
電話がある。
手を引いてもらうだけと認知できないで
浮気をしていると思ってしまうのであるから
お手上げである。
セールの最中、出かけねばならなかった。
そして、夜の俳諧が始まっていた。
2キロくらい離れたセブンイレブンで夜中の2時ごろ
タクシーを呼んでもらって警察へ行けという。
警察前でおろしても、またどこかへ歩いていこうとするので
タクシーが警察に駆け込む。
警察官が出てきて、なんだおばさんかいと
知っているので、自宅まで送ってくれる。
ある日、おやじから電話。
追い出されたので来てくれという。
行ってみると、おやじが入れ歯を外して寝ようと思ったら、
おふくろに知らない人がいるからと追い出されたという。
いくらあんたの亭主だといってもだめだった。
仕方がないので、我が家に泊めたが、
おやじは借りてきた猫のようにおとなしくしていた。
翌日、おふくろのいる家までおやじを送って行ってみると
朝は正常で、ケアマネージャーさんにおやじが浮気をしてきたんだと
説明しているところであった。
おやじは長年連れ添ったカミさんに追い出されて
こんな情けねえ事はないと言うのであった。
まさかこの年になってと嘆くのであった。
夜の俳諧、その防止策として鍵を玄関にかけた。
おやじは追い出されないように別の部屋にかぎをかけて
寝ることにした。
ところが、おふくろはどこかドアをぶち破って表に飛び出した。
そして3月6日の閉店セールの忙しい夜の9時ごろ、
店長、副店長が働いている店にやってきた。
そして言った。
お父さんが女と来ているだろう。
私はお父さんを殺して私も死ぬんだ。
私はしょうがないので、
こっちにいるよと店から連れ出した。
これほど愛していたんだねえと思った。
目は血走っていたが、包丁もなにも持たないで
どうして殺すのかと思ったが、おやじのいる家に
連れていくことにした。