『詩と思想』11月号にて
私の詩「朱(あけ)の寝床」が入選をいただきましたので
お知らせいたします
狭山湾に人魚が渡来するという伝説があり
そこからヒントを得ました
陸にあがる人魚、椿
それを書いてみたかったのです
前から続いているテーマである
灯台の男も登場します
以下全文を掲載しますね
朱(あけ)の寝床
突然暗くなったかと思うと風が止まり 笙
のような音が空から降ってきた 松林の上を
小さな貝の鳥が二羽旋回している 明日は中
秋 そろそろ人魚が海から上がってくる頃だ
村のおかみさんたちは狼が描かれた護符を
びたんと手のひらで門柱に貼り付け 剃刀の
ような視線を投げ放ったが 人魚はおかまい
なしに笑みを浮かべ 潮の薄衣を引きずりな
がら 細く長い坂を上って行く 甲高い声で
鳴くと 灯台守の小屋の扉が勢いよく開くの
が聞こえた
落ちた鱗を手に取ると みるみる椿の花と
なった 蝋のような肌が徐々にあらわれ 寝
床は朱の斑となる 心臓の形をした花びらを
口に含み 灯台守は永遠の命を懇願したが人
魚の瞳孔は一瞬線香花火のように煌めいたと
思うと すぐに淡く沈んでいくのだった
甘い雨が降る頃になると 小鳥は地に落ち
砕けて 足裏を刺す そして大根を洗うおか
みさんたちの顔には次第に笑みが戻るのだっ
た 二人で手をつないで浜辺に向かうと 人
魚は翠緑玉でふちどられた波をひらりとめく
って その下に滑り込み 振り返り振り返り
沖の都へ帰って行く それから半年のあいだ
灯台守は昼間は蜻蛉のように漂って 椿の葉
が月に照るその底に 紫黒の髪が流れるのを
見つめていたり 丸い実をぶちぶちとねじ切
っては 力まかせに岩にこすりつけ 骨が透
けた耳のうしろの匂いを思い出すのだった
風が渡る絶壁の上で群草に腰を降ろし 灯
台守は天を仰ぐ 切ろうにも切れない星銀河
がその裾を捉えられたまま水平線に滑り落ち
てゆく 灯台の長い光芒は 暗い水面を繰り
返し撫でさすっては ひとり恋煩っている
選者の清岳こうさんの評はこちらです
細やかな
描写、ストーリーの展開は申し分あり
ません、が、これは単なる物語じゃな
いよ、ほら、あんたの背後にも張り付
いて一生ついて回っている現実の話だ
よ、という迫力が欲しいところです。
この迫力が詩への共感を呼ぶはずです
が、もう一息、詰めが甘い気がします。
例えば「ひとり恋煩っている」と第三
者的に突き放されては、恋も不燃焼の
ままです。ともに恋煩いの地獄に堕ち
てこその詩ではないでしょうか。作品
との距離の取り方を考えてみて下さ
い。
むむむ~この作品、ちょっと情念を人事として
捉えてしまったかもしれません
異形の者に恋する陸の男の恋ごころ
無意識に距離を置いてしまったのかも
また人魚がとても情が深いという設定にはできなかったので
全体に胸こがれる感じが薄かったかもしれません
苦しむがよい~~ とおもっていたのかもしれません 笑
最後の丘の上の景色や灯台の光と銀河の呼応の推敲に
すごく時間をかけてしまったので
情景描写に注意を向けすぎていたかもしれませんね
最後の恋煩っている、のところ
もっと腸がえぐられるように出来ないか
考えてみます
自分の歴史や心情に根差した詩を書かないといけないですね
アイディア先行だと紙の上だけの物語になってしまう
今書いているものも、此岸に佇む男の物語なので
女に置き換えたほうがいいのかなぁ
自分の源泉と作品がつながっているかどうか
これは繰り返し清岳さんがおっしゃっているところなので
注意したいです
ところで男の人魚に出会う陸の女だったら
どんな物語でしょうか
前に江の島を舞台にして
現代版の詩を書いたことがあります
そうしたらコメディぽくなりました
男の人魚と陸の女だったら
きっとうまくいくと思うんですよね
なぜでしょうね
物語詩以前の男女の詩を主にまとめています