『詩と思想』2023年7月号にて

私の詩「迷い家の男」が入選をいただきました

以下全文を記します

 

 

 

 

「迷い家(まよいが)の男」

 

 

深山に蕨とりに入ったら

昼間だというのに大きな梟に案内(あない)されて

黑い瓦屋根の家にたどりついた

あるじは笛彦と名乗った

ほかには誰もいない

サァお上がりなさい娘サン 

茶を立てて進ぜましょう

山藤色の着物に白く長い首巻

妙に艶めかしい声色

きっと女の人に囲まれて育ったのだろう

風がそよぐ縁側で長いこと話をしたけれど

何の話だったかひとつも覚えていない

この家に来た証に、と黒漆の篠笛をくれた

長いまつ毛が蝶のように羽ばたいて

どこかへ飛んでいってしまいそうだった

帰り道に馬の背に乗る私を

うれしそうに幾度も見上げては

大きな目をやたらとぴかぴか光らせて

笑いを押し殺していた

川の二本松のところで私を降ろし

馬首を返して手を振る姿が

水面に映っていたけれど

橋を渡って振り返っても誰もいなかった

そのあとすぐにあれよあれよと話がまとまり

ふた山越えた集落の長者の家に嫁入りした

十月十日たたぬうちに生またのは

長いしっぽが生えたびーどろの目の男の子

耳が聴こえないのに笛の音だけが聴こえる子

家の人は何も語らず咎めず

にこにこ眺めては振り向くとそっぽを向いた

坊が五歳になった望月の夜に

庭から聴いたことのない音が聴こえてくる

夢うつつで冷たい長廊下に出ると

月に梅の香が満ちる中

迷い家のあの男が池の水面から

坊に笛を教えていた

ゆらり揺れる大きな月を背に

まつ毛をしばたかせながら

元気そうだネ 

にやり 笑った

 

(一部推敲が甘かったので訂正してお見せしています)

 

 

『遠野物語』に迷い家というエピソードがあるのですが

私なりのを描いてみました。

『遠野物語』のほうは立派な丁度のある家で

それを一つ持って帰ると家が栄えるというものです

遠慮して持って帰らないと

川から流れてきて持って帰らせたり(強制的 笑)

災いが起こるそうです

 

この詩での迷い家はあえて理屈や説明を省いた

(詩とはそういったことをしないものですが)

不思議現象をつらねてみました

この男が主人公をすごく好き、ということは明らかなのですが

その理由もあえて曖昧にしました

この作品はマジカルリアリズムではなく

ファンタジーに近いものかもしれません

 

 

この詩に対して選者の清岳こうさんはこのように評してくださいました

 

 

美しい物語詩の一篇です。特に引っかかるも

のがない完成度の高さが、問題といえ

ば問題かもしれません。それは笛彦殿

の「山藤色の着物に白く長い首巻」「妙

に艶めかしい声色」「長いまつ毛」が

アニメチックなイケメンを安易に想像

させる点にもあります。「月に梅の香」

なんて伝統的美学を想起させるフレー

ズなどの扱いも平凡です。今までの園

さんなら、ここらあたりの大物とは大

格闘、大混乱を繰り広げてくださり、

やんややんやの喝采を独り占めしてた

はずです

 

 

清岳さんは紫色のイメージなのでそうしてみました

 

なんて身に余るお褒め言葉でしょう、、

赤面してしまいます 笑

表現が平凡、、、たしかに

月に梅の香、、、ただこの場面では

それしかなかったのですよね

色の表現はもういっぱい使ってしまったし

でももっと考えてみます

 

言い訳を言わせてもらえるなら

この詩の女性は、書いている当初から

何を考えているかわからない人で

不思議な体験をしていても淡々と受け入れています

彼女にはとくに不思議な能力や

とびぬけた感性があるわけでもなく

ただ笛彦と不思議な一家に見込まれただけなので

彼女の目から見たこの詩の表現の幅が

せばまってしまったのかもしれませんね

このように登場人物のキャラクターや目線を変えられず

自然と言動も変えられず、その内面や感性も、

そんなときがあります

反対に表現によってそのキャラクターが広がったり

そんなときもあります

 

この詩をどう書き換えていくことができるか?

すでに少しずつ変えています

しばらく手のひらの中にもっていようとおもいます

 

このところひしひしと詩の先輩たちからの

期待や励ましを感じます

もっと上を目指せ!と求められている幸せを感じています

いつもありがとうございます!!!

 

 

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白洲夫妻の住処だった武相荘にて