第 20 章
新たな挑戦 28
「お節料理だけじゃ無くて、料理全般を一から勉強してるみたいですよ!? 特に、割烹料理に興味があるみたいですよ!? 恭子さんの部屋に、料理の本がいっぱいあったから!
なんかね、本気で料理の勉強してたら描く絵画が変わってきたのが自分でも解かるんだって言ってました!?」
良子はいかにも嬉しそうに話していたが、 和田の心中は複雑であった。
「使う色が変わってきたんだって!? 使う色を合わせするのが愉しくなってきたんだって!? それはまるで、料理を作っている時と同じように興奮できるんだって言ってました。
自分で作った料理が一番美味しく見える様に描くには、料理の基本を知らなくちゃダメだって!?
自分で食べたくなるほど、本当においしい料理を作れなきゃ駄目なんだって! だから、料理の基本を一から勉強を始めたんだって!?
どんなに上手に描けても、自分が食べたくなるような絵画じゃなくちゃダメだって!? 観てるだけで、その料理が味わえる絵画になってなきゃ駄目なんだって!?」
「へぇ、そんなことがあるんだ!? 私は、絵画のことは全く解からないんですけど…、そんな事ってあるんですか和田さん。」
晶子は、それとなく和田に問いかけた。
「あぁ、あると思う! 何かを極めようとすると、そこにある何かに気付くのかも知れないな!?
描くものの本質を極めることは、描くものに対する情熱のようなものだからな! そうかも知れないな!?
美味しい料理じゃ無いと美味しそうには描けないってのは、真を得てるのかも知れないな!?
多くの画家さん達の画風や色彩が変わる時って、心中で何かが変わる時だからな!? そうか!? 恭子さんがなぁ~!?
静物を描く人達は結構いるけど…、料理そのものを描く画家さんは少ないからな!?
新しいジャンルだから結構受けるかも知れないな!? 面白そうなジャンルだ! じゃぁ、今度じっくり見てみよう!」
和田が感心した様に目を輝かせていると、
「和田さんも、観るだけじゃなくて味わってみてください。 晶子先輩には及ばないかも知れませんけど…、恭子さんの料理もおいしいですよ! 最近、オーナーもそんなことを言ってますし、私もそんな風に感じる時がある位ですから…!」
「じゃぁ、今度味合わせて頂こうか!?」
和田が感心した様に答えると、良子は嬉しそうに、
「是非、そうしてください。 最近は、小岩店に来てることが良くありますから! もしなんだったら、連絡しますけど…!?」
「晶ちゃんはその情報知ってるのか!?」
「いいえ、恭子さんのシフトまでは把握してません。 って言うか、そこ迄の余裕はなかったです。 済みません。」
「晶ちゃんが謝ることじゃ無いよ! 今度機会があったら、晶ちゃんも一緒に味見させてもらおうか!?」
「そうですね!? 是非味見させて頂きたいと思います。」
そんな2人の会話に安心したのか、良子は、
「私は絵画の事は良く解からないから、へぇ~って聞くだけだったんですけど…! 私が詰めたお重は、見た目はイマイチだったけど…、恭子さんのお重は盛り付けもとっても奇麗だった。
まぁ、性格的なものもあるんだろうし…、才能の違いもあるんだろうけど…!? 奇麗に詰められたお重を見て、やっぱり恭子さんは芸術家だねって言ったら、最近やっとそんな自覚が沸いてきたんだって、嬉しそうに言ってました。 最近、漸く自分が描きたい絵画が見えてきたんだって!」
「それじゃ、恭子さんのお重とあんたのお重の盛り付けの違いもバレたんじゃないの!?」
晶子がいかにも心配そうに尋ねると、
「はい。 その点は強かな嫁ですから、上手く話しておいたので、多分バレてません。 私のお重は、センスを疑われると困ると思って、こちらのお重は盛り付けに時間が無くて済みませんって誤魔化したの!」
「やっぱり! その辺だけは相変わらず上手なんだね!?」
「はい。 その点は、晶子先輩から学んでましたので、抜かりは無いです。 なぁ~んてね! は、は、は!」
そう言って大きな笑い声をあげる良子に、和田は好感を抱いていた。
「何言ってるの!? 私は、お店でそんな誤魔化し方をした覚えは無いけど…!」
晶子も、そう言いながら嬉しそうに微笑んでいた。
「はい、済みません。 来年からは時間配分を上手にして、見た目をもっと気にした方が良いって、釘をさすことも忘れないありがたいお姑さん達だけど…、心中ではあんた達の可愛い息子に食べさせる為に勉強してるんだから、その位は許してもらわないと困るんですって…!
って言うか、私がその先に考えてることを今バラしちゃったら、大反対されること間違いなしだから…!?
まぁ、それもこれも晶子先輩と恭子さんのお陰様ですけどね!? ありがとうございました。 これで、心置きなく晶子先輩にいろいろ教えて頂けます。」
そう言って頭を下げ、いかにも嬉しそうに微笑む良子には、これから先自分が進むべき道がはっきりと見えていたのかも知れない。
「じゃぁ、取り敢えず時給600円でお願いできるかな!? その先は、お店(しののめ)の状況に応じて取り決めさせて頂くって形でどうかな!?」
和田が心配そうに尋ねると、
「はい。 それで十分です。 ランチ営業が軌道に乗れば、働ける日数や時間も増えると思いますし…、追々で決めて頂ければ構いません。 忙しく成れば、働き甲斐も出てくると思いますので…!?」
そう答えた良子であったが、居酒屋のオーナーが言っていた恭子の移動や、しののめへの応援を認めると言う話しが気になっていた。
「ところで…、私がシフトに入ったら、恭子さんはどうなるんですか!?
恭子さんはどうするんですか!? 私が『しののめ』のシフトに入ってしまったら、恭子さんが入るシフトが無くなるんじゃないですか!? それじゃ、まるで私が恭子さんを除け者にしたみたいになりませんか!? そんなの嫌です。」
恭子を案じる良子の言葉に、和田が言葉を掛けた。
「その点は、居酒屋のオーナーと俺が話を付けるから、心配しなくても良いよ!
俺は、そんな具体的な話はオーナーから聞いたことも無いし、恭子さんの意向も確認しなきゃいけないしな!?
前に、晶ちゃんからランチ営業の相談をされた時に、人手が足りなくなりそうだからオーナーに相談したことはあったんだ!
その時の話をオーナーが覚えていてくれたんだと思うけど…、再度確認してみる!」
和田はそう答えながらも、良子の強い思いや篤い想いに気付いていた。