第 2 章

  事 実 と 真 実 32 

 

「はい。 マスコミから逃げる為に暫くここを離れることに成ったんですけど、私…、どこへも行くところが無いんです。」

 落ち込んだ莉絵に、ママの一言。 

 

「それは、自業自得だね!? 何もかも自分の捲た種なんだから、自分で刈るしか無いね!?


 私らや和田さんだけじゃなくて、財前さんご夫婦もあんなに心配していたのに、全く言うことを聴かなかった罰が当たんたんだよ! でも、実家にも帰れないのかい!?」

 

「実家にも、弁護士が何度も来ていたみたいで、無責任な噂がいろいろ飛び交ってるから、帰ってこない方が良いと言われてるんです。」


 まるで、何もかを諦めた様な莉絵の表情が、親分肌のママのなにかを動かしていたのかも知れない。

 

「あぁ、なるほど!? そんなに大きな話になったのかい!? じゃぁ、仕方がないか!?


 袖振り合うも他生の縁って言うから、私がマスターにお願いして、暫くの間は面倒見て遣るよ!」

 

 ママは、そう言うとバッグから一枚の名刺を差し出した。

「そこに書いてあるお店に、明日の夕方来てみな! 莉絵が暫く身を隠せるところを準備しておくから!」

 

 ママから名刺を受け取った莉絵は、お店の名前を見て驚いた。

「えっ、瑠璃ってお店を始めるんですか!?」


「あぁ、暫くはのんびりしてたんだけど、どうしても愉しかった昔が忘れられなくてねぇ、マスターと相談してもう一度お店を開くことにしたんだ! 

 

 と言っても、週末だけだけどね! 瑠璃と言う名前でね! 今日は、そのお店で使う備品の買い出しと、財前さんへお挨拶を兼ねて上京してきたんだ! 

 

 秋田(県)でお店を始めると言っても、一応真紀子さんにだけはご挨拶しておかないと、何かあった時に助けて頂けないから…、世に言う財前詣でだよ!」

 

「あぁ、昔から良く聞く話ですけど、未だに財前詣でってされる方が居られるんですか!?」


「勿論だよ! そうじゃ無かったら、何かあった時に困るからね! 財前詣でさえして置けば、世間にも話が通りやすいからね!」

 

「そうなんですか!? 真紀子さんは、もう現役を引退されて居られるのに、未だに影響力があるんですね!?」


 莉絵は、自分の知らない真紀子の真を、はじめて目の当たりにしていた。

 

「影響力じゃなくて、それだけの実績があるからじゃ無いのか!? 真紀子さんの凄さは、言葉では言い表せない凄さだからね!


 だから、秋田(県)で水商売の話をしていても、財前さんの名前を出せば何もかもとはいかないにしても、一応筋は通るからね!」

 

「そうだったんですか!? そんなに凄い方なんですね!?」


「凄いなってもんじゃないよ!? この世界じゃ神様だよ! 莉絵はそんなことも知らずにここで生きて来れたんだね! ある意味じゃ、幸せもんだね!?」

 

「えっ、私は幸せ者ですか!?」

 莉絵はママの言う言葉の真を正しく理解できずにいた。


「あぁ、幸せ者だね!? 幸せってのは、ラッキーってことだよ! ハッピーじゃなくて、ラッキーだってことなんだよ!? 

 

 あれだけの事件を起こしても、未だにこの界隈に居られるのは、真紀子さんのお陰様だってことに気付いたことも無かったのかい!?」

 呆れた様に苦笑するママに、

 

「いいえ、はい。 全く気付いていませんでした。 私がこの街に居られるのは真紀子さんのお陰様なんですか!?」


「あぁ、何もかも真紀子さんご夫婦と、和田さんのお陰様じゃ無いのか!?  その真を莉絵は知らなかったのかい!?」

 

「はい。 多分、ママがおっしゃっている意味が、私には理解で来ていないと思います。」


 莉絵は、その真を何も知らない侭、今に至っている自分に対して、少しづつ苛立ち始めていた。

 

「あぁ、そうだろうね!? もし判っていたら…、その真を知っていたら…、とっくにこの街から逃げていただろうし…、


 あの疫病神にも出会わなかったんだろうけど…、その幸いに心から感謝できていない莉絵を育てた私が恥ずかしいよ!」

 

 苛立ちをぶつけるようにそう言って落ち込むママに、莉絵は言葉を掛けることさえ躊躇わせていた。

 

「まぁ、そんな話しも秋田(県)に着いたら、オイオイ話して遣るよ! 私の東京での人生の復習だね!


 厳しいかも知れないけど、莉絵もお店(瑠璃)時代を復習しないと、その先が見えなくなるよ!」

 

 ママの言葉に、莉絵ははじめて何かを感じていた。 その何かとは、知らず知らずに自分が犯してきた罪だったのかも知れない。


 そんな2人はいつの間にか無言になっていた。 お互いの真に、同意点が見付けられなくなっていたからなのかも知れない。

 

 莉絵はママの心中を計りながら、明るく声を掛けた。

「じゃぁ、合羽橋へはもう行かれたんですか!?」

 不機嫌ながらママが応えた。

 

「あぁ、もうほとんどの買い物は済ませた。 今週中には届けてくれるって言うから、莉絵も秋田へ来たら手伝ってくれるかい!?」


「はい。 勿論です。 えっ、でも、本当に良いんですか!? 匿ってもらえるんですか!?」

 

 莉絵は、ママの想いを有りの侭に受け止め、天にも昇る思いだった。


「仕方ないじゃ無いのかい!? 他に頼る人も居ないんだろ!? もう10年も下町に住んでいながら、誰とも手を携えられずに生きて来たから、こんなことに成るんだよ!?

 

 10年前から、私や和田さんだけじゃなくて、財前さんご夫婦にもあんなにお世話になっていても、何も手に入れられずに10年過ごしてたんだね!?

 

 あんた、マジで可哀そうな娘だね!? 晶子みたいに、何にでも挑戦しようと言う気概も根性も無かったんだね!? 

 

 誰の真にも触れられず…、誰の実にも気付かずに…、自分の真にも実にも気付けない侭生きて来たんだね!? マジで、可哀そうな娘! 

 

 莉絵をそんな風にしたのは、あの疫病神なんだろう!? 死んでからも莉絵を苦しめるなんて、マジで疫病神だね!? まぁ、仕方ないよ!

 

 それもこれも、私やマスターの力不足もあるんだろうし…、物事の教え方にも問題があったんだろうから…、その罪滅ぼしの真も含めて、今回だけは匿ってやるよ!


 まぁ、まさか秋田(県)に逃げてるとは誰も思わないだろうから!」

 

 ママの諦めムードの中、マスターが走って2人を探しに来た。


「おい! 駅前が大変なことに成ってる! 莉絵が一緒なら、今すぐここを離れることを最優先した方が良さそうだ!?

 

 真紀子さんもそう言ってたから、真紀子さんや財前さんには、改めてご挨拶に伺うことで了解を得たから、今すぐここを離れるぞ!」