第 2 章

  事 実 と 真 実 42

 

「それは…、どういう意味ですか!? それに、もう一人とは…、何方のことですか!?」

 和田が尋ねると福島は、

 

「再開発の為に駅ビルを新しく建てるとなると、先ず和田さんのビルと財前さんのビルを立ち退いて頂かないと、新しい駅舎の建設出来無いんです。

 

 色々な工事の日程表を作成する時点で、駅の改築工事を最優先しなければならないことが判明しているんです。 


 JRの線路を移動する訳にはいかないようなので、駅に最も近いこの界隈の工事を最優先することが必要なんです。

 

 その為には、必要となる根回しが最優先課題に成ると考えてます。 それともうお一人、新小岩の顔とも呼ばれる中田さんを味方に付けなければ話は進まないと考えてます。」

 

「あぁ、中田さんですか!? 確かに、中田さん(以前鈴木が事故を起こしたテナントビルのオーナー)は、この界隈に幾つかのテナントビルだけでなく、マンションも数件お持ちですから、ご意見を伺わなければならないお一人ではありますね!?」

 

 和田が納得したように頷くと、福島はその先を急いだ。

「他にも、この界隈を再開発するとなると、恐らく約3000人以上の地権者の同意が必要になります。

 

 だからと言って、駅舎の位置を大幅に変更することも困難なので、現状では先ず和田さんと財前さん、そして中田さんにご尽力いただくことが最善では無いかと言う結論に達したんです。」

 

「あぁ、はい。 それは何となく理解できますけど…、JR迄巻き込んだ巨大ホールディングス計画に、どうして福島さんの会社が乗り出してきたんですか!?」

 和田の純粋な問いに、福島は応え辛そうに、

 

「あぁ、その真や実は社外秘事項なので今はお答えできませんが…、会社にも色々な事情があったんだと思います。


 未だ大規模災害防止計画も、再開発の影も形も無いころから、みんな必死になってその計画の情報を集めていたんですから…!

 

 そんな中で、私の会社でも是非そのプロジェクトに参加しようと言う話しが持ちあがって、今に至っているんです。


 新たなホールディングスに付きましては、和田さんの不動産会社と画廊、鈴木さんが任されているハウスメンテナンス会社、財前さんのビルにある『しののめ』さん等々は、その形態の侭ホールディングスの傘下に入って頂きたいと考えています。 

 

 そして、財前さんご夫婦のテナントと和田さんのテナントを管理している財前さんの娘さんが代表を務めておられる会社と喫茶部も、新会社としてホールディングスの傘下に加わって頂ければ、新たなホールディングスへの移行の話は早く進むと思います。

 

 唯、5年後から工事が始まって完成まで凡そ10年は掛かると言われてますので、その間テナントに入っておられる方々の行く末をどう判断するのか…!? 現状を維持できない以上、何らかの方策を考えなければなりません。

 

 お2人のビルに入居されて居られる店子さん達だけでも、工事が始まる5年後までに、この先をどうされるのか真剣に考えなければなりません。

 

 また、代替え地や代替えテナントをどう確保するのか等々を鑑みれば、途方もない時間と労力が必要に成ることは必至です。


 恐らく、その計画の詳細が決定しなければ、工事は始められませんので、工事が始まるまでも、紆余曲折があると思います。

 

 それでも、都民の安心安全を最優先しながら、みなさんそれぞれの生活や経済活動を止めることなく、工事は進めなければなりません。


 その点も含めて、JRや都との話し合いは私の方で進めますので、予めご了解いただければ幸いです。

 

 補足ですが、駅ビルを緊急避難場所と併用する為にも、少しでも広いオープンスペースが必要となりますので、荒川(莉絵)さんや小橋恭子さん達の絵画を展示販売できる美術館と画廊スペースを、無駄だと思えるほど広く設けたいと思っております。

 

 お上(国)から、防災避難場所の指定を受けられれば…、防災施設と認められれば…、結構な割合で補助金も出ますし…、避難場所としても駅は最適ですから、審査も容易く通ると考えてます。

 

 画廊での絵画の企画展等々は、和田さんの画廊と財前さんの娘さんの会社で企画されれば、ある程度の収入は見込まれると思いますので、その件に付きましても追い追い協議していきたいと考えてます。

 

 あぁっ、和田さんの娘さん、雅号はアイリさんとおっしゃいましたかね、アイリさんの絵画も展示できると思います。


なんせビルのワンフロア―全てを利用する、広大なスペースを確保する予定ですので…! 他にも、いろいろアイデアはあるんですが、未定としてあります。

 

 絵画を描かれるみなさんが利用できるアトリエも、それぞれに確保する予定になっておりますし、もしもの時にも、画廊は癒しの場になるかとも思いますので、この図面を一見して頂ければ幸いです。


 一応この図面を見て頂いて、和田さんと財前さんのご意見を伺いながら、この先を検討していきたいと考えて居ります。」

 

 福島は、そう言って大きな図面を2部テーブルに広げた。 そこには、新小岩の駅から約500メートル界隈のあざ切り図と、28階建ての駅ビルの完成図面が引かれて居た。

「これが現状ですが…、こちらが完成予想図です。」

 

 その正確さや詳細さに和田も財前夫婦も驚いていたが、大きすぎると感じる駅ビルにも驚いていた。 


「こんなに大きな駅舎を建てる予定なんですか!? 工事期間10年で、本当に間に合うんですか!?」

 

 和田の不安を払拭するように、福島は笑みを浮かべた。

「はい。 その予定です。 唯、このビルを免振にするのか耐震にするのかは未だ検討中ですので、はっきりしたことは申し上げられませんが、現在の工程表では間に合わせられるという判断です。」

 

「あぁ、免振か耐震かで工事期間は異なりますから、先ずはそこから始めなければならないんですね!?」

 和田は、納得したように首を小さく縦に振った

 

「俺も、今までこんなに詳細な字切り図は見たことが無いけど…、駅の界隈はこんなに混み入って居るんだ! これは大変な工事に成るな!?」

 財前が半ば諦めた様に呟くと、和田が、

 

「そうなんだ! だから、俺のビルもほんの少しだけど、未だ地権者が明確になっていない部分がるんだ! その所為で、エレベーターを設置できなかったんだ! 

 

 今でも判明できなくて困ってる部分もあるんだ! でも、3,000以上もいる地権者をどうやって纏めるんですか!? 本当に纏まるんですか!?」

 

「はい。 その点は都の方で尽力して頂けるお約束になってますが…、その実は困難を極めると思います。 


 ですので、中には強制執行を掛ける区域や部分も生まれるかと思います。 

 

 それに、戦前からの土地の中には、正確な字切り図や地権者が明確になっていない土地も多くありますので…、私らでは考えられないような様々な問題噴出が考えられますので、やはり最終的にはお上(政府や都)の力をお借りするようになると思います。」

 

 半ば諦めた様に呟いた福島の真を、和田は思い遣ることしかできなかった。