勇気 | 直さんの独り言

直さんの独り言

50歳代前半に早期退職をし,ど素人が始めた「珈琲かぶとむし」も閉店し、今は新しいライフスタイルを模索中です。

2007年初版発行の小説「M8」を読み返している.これでかれこれ4回目位になるだろうか.地震予知の研究をしている主人公と,過去に地震にかけては第一人者と言われた元教授,そしてそれを取り巻く様々な人物が繰り広げるストーリー.阪神淡路大地震を予知できなかった元教授が進めていたシュミレーションプログラムを発展させその研究の中から東京都直下地震を確信する主人公の心の葛藤が描かれている.元教授と主人公は阪神淡路大地震で大事な家族,部下を失い学問に対する疑問そして自分の行動に対する後悔の念を拭い去ることが出来ないまま刻々と迫る直下型地震の恐怖に怯えると共に被害を最小限に止めるための自分がとるべき行動を模索する.

 

この小説の中で気付かされたことが二つある.

「自信はあった.しかし,勇気がなかった」.人生の中で必要なものは数限りなくある.しかし,その中で大事なものは「勇気」なのではないか・・・

自分の知識,研究,経験を通じて得られるものの中から導き出される行動が世の中の為になる仲間の為になると解っていても,その実現のために一歩前に踏み出す「勇気」がなければ何も無いに等しい.

 

自分が会社を辞すると決断する前に,あの時自分が思っていたことを石に噛り付いてでも実現するためにもう一歩,もう一歩だけ前に踏み出す「勇気」があったら・・・12年前の自分が昨日のことの様に思い出される.

 

「社会に役立てなければ学問の意味なんてない」.地震予知と言う学問に取り組んだ元教授が政府関係者にその重要性を説いたその翌日に自分の故郷で未曾有の大地震が発生し家族,部下を失い皮肉にも会議日程を一日延期し東京に滞在した自分だけが助かってしまうと言う目にあった元教授の偽らざる心境がにじみ出ている.

 

東海地震,直下型地震に対する警告は今でも「今後〇〇年の間に〇〇%の確率でM〇以上の地震が発生する」と言う域を脱し切れていないのが現実である.その研究のためにどれ位の予算が注ぎ込まれているのか解らないが,実際担当している研究者,関係者の苛立ちは計り知れないものがある.

 

還暦をとうに過ぎた自分にこれから何が出来るのか?甚だ不透明極まりないことではあるが,この小説から得られた教訓を大事にしたいとやけに神妙な自分がここにいる.