<デコルテの憂鬱>

ジョルジュ・デコルテはこの夏に23歳の誕生日を迎えた。
ある日デコルテがデパートのトイレで用を足すと、尻の穴から星が3つでてきた。
それをこっそりポーチに忍び込ませてから4日が経っていた。

ある暑い夏の日に、デコルテは星をポーチから一つ取り出し、日にかざしてみた。
すると、星はひろがり、ひろがりつづけ、鮮烈に輝いた。ひまわりのような黄金色は、次第にその明度を上げていき、ついには真っ白な光となった。
デコルテはあまりもの光の強さに目を閉じざるを得なかった。瞼越しにも見えるその強い光は、デコルテの皮膚に何かしらの影響を与えたらしかった。
デコルテはチョコレートフォンデュの鍋に身体を浸したような、重く甘美な感覚に浸っていた。
気づけば光はおさまり、デコルテは目を開けていた。すると目の前に星はなくなっており、一人の碧眼の青年が直立していた。
青年は驚くほど細長い目をしており、鼻は隆々として、虹色の唇をしていた。
デコルテは面食らってしばらく呆然とその唇を眺めていた。
青年もデコルテをまた見つめており、やをら名乗った。
「私の名前はゼグゼクタ・フリッジです。」
デコルテは我に返り、反射的に名乗った。
「私はジョルジュ・デコルテ。あなたを見たことがあります。」
彼はデコルテの反応をすべて予想しているかのようであった。
「デコルテさん、この音楽を聴いたことがあるかと思います。」
そう言うとゼグゼクタはそのくるぶしまである大きな上着のポケットから、ひとつのオルゴールを取り出した。
オルゴールはガラスで出来ており、ユニコーンの彫り物がしてある。
デコルテはそのオルゴールを受け取り、ゼンマイを回すと、木琴のようなくぐもった音が流れ始めた。

ミ ミ ミ ミ ミ

ひたすら等間隔にミの音が流れるばかりであった。しかしデコルテはこの音楽に聞き覚えがあった。
「ゼグゼクタさん、私は毎日夢であなたを見ます。そしてこの音楽はその夢で流れるものです。」
「その通り。デコルテさん、あなたはあなたの夢を信じますか」
「信じるとは、どういうことでしょう。私は夢を見た以上、その夢は現実であると考えてますよ。そうだ、ゼクゼクタさん、私は星をあと2つ持っています。
私はこれをどう扱えばよいのでしょう。」
「その星はもう、なくなっているかと思いますよ、デコルテさん。あなたは3つの星のうち、私を選ばれた。全ての星を選ぶことはできないのです。悲しいことですが。」
デコルテがポーチを開けてみると、たしかに残りの星はなくなっていた。代わりに2つの大きなマシュマロがあった。
「本当ですね、私は2つの星を殺してしまったことになるのでしょうか。」
「殺したとは言いませんが、あなたは他の星を無視したことになるのです。」
「私は生きているうえで、たくさんのものを無視しなくてはならないのね。」
「しょうがないことです。あなたは悪くありません。」
「ありがとう。マシュマロはいかが。」
そういうとデコルテは、ひとつのマシュマロをゼクゼクタに差し出し、もうひとつのマシュマロを自ら頬張った。
マシュマロは大きな雲のようであった。デコルテはこんなに美味しいマシュマロを食べたことはないと思ったが、飲み込んだ途端憂鬱になってしまった。
「ゼグゼクタさん、私、急に疲れたみたいだわ。悪いけど、私はもう何も話したくないし、少しも笑いたくないわ。」
「デコルテさん、わかりました。オルゴールのシリンダーになっていただきます。あなたは一つの音になるのです。それがあなたにとって幸福なことでしょう。」
「よくおっしゃる意味がわかりませんわ。しかし、オルゴールの音になるというのは悪くないと思うわ。」
「デコルテさん、あなたはきっと美しい音になりますよ。」
そう言うと、ゼクゼクタはパチンと指を鳴らし、デコルテは一つの音になった。ゼクゼクタがオルゴールのゼンマイを回すと、
デコルテは弾かれて「ミ」と鳴った。

吐息が白くなったのを見て、季節の変わり目を感じる人間もいれば、ただ寒さを感じる人間もいる。
怒りの感情が強いそのなかでも怒りをよく表現する人を軽蔑するし嫌いである、と同時に強烈に惹かれて好きであるというのはつまり、本当にどうでもよかったら無関心であり、嫌いと思っているということはかなり興味を抱いているということである。嫌いと思うほどの気持ちを抱かせるから「好き」なのであって、好きと嫌い両方感じている矛盾の正体は、「嫌い」だから「好き」ということである。根本は「嫌い」なのだ。自分に居列な関心を抱かせるから「好き」なのだ。私は怒りっぽい人が嫌いなんだ。好きではないんだ。
自分が立っている場所が地球の裏側まで軸が通っているように存在しなくてはならない
こちらが笑えば相手も笑うしこちらが怒れば相手も怒るーーそれがわかってればいいんだよ。