「十把一絡げ」という言葉がありますが、なんでもかんでもひとくくりにして考えればいいというものではありません。先日嫁さんと定食屋に入ったら、年配の男性客がこんなことを話しているのが耳に入ってきました。「マスター、新しい店員さんいるじゃない。でもいまどきの子は叱るとすぐ辞めちゃうから大変だね!」僕はなんとなくその新人さんをかばいたくなって「叱られたらすぐ辞めるかどうかは人によるよなあ」と小声で嫁さんに言うと、「え、なんで?私ならその場で辞めるけど。人から指図されるの大嫌いだし」…常識をこの人に聞くこと自体が間違ってました。

               犬嫁日記#46:『世界の半分を敵にまわす』の巻

その日、自宅の二階からリビングへ降りて行くと、嫁さんが本を読みながら大きなため息をついていました。その背中ごしにただならぬ気配を感じた僕が、そのまま二階に引き返そうとすると…

嫁:「ねえ、ちょっと」
僕:「なに?」
嫁:「悪いんだけどさ、もう一緒に暮らすのはやめにしない?」

悪い予感的中です。あと数秒気がつくのが早ければ良かったのですが、ロックオンされたからには回避のしようがありません。

僕:「いきなりなにを言いだすわけ?」
嫁:「言葉どおりよ。明日から私はひとりで暮らしていきます」
僕:「俺がなにか悪いことでも?」
嫁:「そんなんじゃないねん」
僕:「だったらなんでよ?」
嫁:「私は男という生き物に絶望したの

見ると、嫁さんは分厚い本を手にしています。詳しくは分かりませんが、タイトルからすると世界の紛争地域のことが書かれている本のようです。

嫁:「いつの時代も戦争を起こすのは男でしょ。いったいぜんたい何やってんの?って感じだよね。もういいかげんにしてって言いたくなるわ」

どうやら嫁さんはその本からかなり影響を受けたようです。

僕:「だからって俺まで一緒くたにすることないだろ」
嫁:「なんでよ?あなたは男でしょ?」
僕:「そうだけど」
嫁:「男なんてしょせんみんな同じよ」
僕:「安いドラマのセリフみたいなこと言ってますけど、それってちょっと乱暴すぎないか?」
嫁:「いいえ、そんなことはありません。いつまでたっても進化しない乱暴な生物が男なんです」

個人的な欠点を責められるならまだしも、男というくくりでこられるとこちらもなかなか大変です。だって世界中の男性全員をしょって立たなければいけないのですから…

僕:「世界の半分は男なんだぞ。それを敵に回してどうしようっていうの?」
嫁:「それがどうしたっていうのよ。数なんか関係ないでしょ!」
僕:「男にだっていろんなやつがいるんだから、なんでも一緒にするんじゃないよ」
嫁:「じゃあ今すぐ進化して見せてよ」
僕:「はあ?」
嫁:「進化して平和な世界を作れる男になってよ」

世界中の男たちを今すぐ進化させることなど僕にできるはずがありません。

僕:「それはムリ」
嫁:「なんでよ?」
僕:「それには時間がかかる」
嫁:「そうやって理屈ばっかり言ってなんにも変わらないのが男なのよ」
僕:「それは違う!」
嫁:「とにかく!くだらない戦争を起こす男はいらないの!」

いらないと言われても、男がいなくなれば人類だってそのうちいなくなってしまいます。そう、これは人類滅亡の危機なのです。

僕:「まあそう言うなよ。大昔から比べたら人間はかなり進化してると思うよ」
嫁:「男を除いてね」
僕:「女だけがえらいみたいな言い方すんなよ!」
嫁:「女はつまらん争いはしないからね」
僕:「女同士でもめたりしてるじゃん」
嫁:「爆弾落としたりはしないでしょ」
僕:「ああ、もう勝手にしろ!つきあってられんわ」

二階へ戻る僕の後ろから、まだ怒り冷めやらぬ嫁さんの声が聞こえてきます。

嫁:「世界中の男を敵に回しても戦いつづけてやる」

…一般的にそれを戦争と呼びます。

                      苦難は次回に続きます。

あけましておめでとうございます。
本年も『犬嫁日記』をどうぞよろしくお願い致します。

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