「猫っかわいがり」なんて言葉がありますが、一度猫の魅力に取りつかれると、猫中心の生活になる人がいます。ありとあらゆる猫グッズを買ってきたり、猫をひとりぼっちにするのはかわいそうだと言って、外出するのもためらってしまったり。
うちの嫁さんもまさしくそれで、隣の家で飼っている猫がウチにやってくるようになってからは、まるで自分の猫のようにかいがいしく世話をしていました。
かわいがるのはいいのですが、家事はやらないくせに、猫の世話だけ一生懸命なので、僕としては少々不満でした。
ある日、冷蔵庫に食材がなにもないので、しかたなく買いに出ようとしたら、着払いでドイツ製の高級猫缶が届いた(嫁さんが頼んだらしい)ときには、ほんとうに腹が立ちました。
犬嫁日記#45:『チビになにが起こったか』の巻
その日、仕事から帰った僕の視界には、ベランダで仁王立ちして、まるで見張り役のように辺りの様子をうかがっている嫁さんの姿が見えていました。
僕:「そんなところでなにやってるの?」
すると、振り向いた嫁さんがこう答えました。
嫁:「チビが3日も帰ってこない。どうしよう…」
チビというのは、少し前からウチに遊びに来るようになっていた子猫の名前です。
僕:「うん。でも、もともとお隣さんちの猫だから、隣の部屋にいるんじゃないの?」
嫁:「それならいいんだけど…心配だなあ」
チビは、同じマンションのお隣りで飼われているらしく、ウチに遊びに来ても、夕方になるとちゃんと飼い主のところへ帰って行きました。嫁さんは、チビがウチにずっといるように、高級猫缶を買ってきたり、猫じゃらしで1日中遊んでやったりしていたのですが、急に来なくなったことにショックを受けてしまったようです。
嫁:「行方不明の可能性だってあるんじゃない?」
僕:「ないとは言い切れないけど、もう少し様子をみようよ」
嫁:「犬は冷たいよね。あんなにチビのことかわいがってたくせに!」
僕:「そんなこと言ったって…なら、隣の人に聞いてみるしかないんじゃない?」
僕が言い終わるのを待たずに、嫁さんは玄関から飛び出して行きました。
そしてしばらくすると、あわただしく戻って来ました。
嫁:「大変だよ!お隣りにも“さくら”は戻ってないんだって!」
僕:「さくら?さくらってなに?」
嫁:「お隣りではさくらって名前で呼んでたんだって!いい名前だよね」
話しながら、嫁さんはパソコンに向かい、なにやら作り始めました。
僕:「なにしてるの?」
嫁:「捜索願いのビラを作って、その辺に撒くの。犬も手伝ってよ」
僕たちは、出来上がったビラを、近くの民家のポストに入れて行きました。
ビラには「猫を探しています。名前はさくら(またはチビ)」と書かれ、チビの写真が貼られていました。
次の日の午前4時。
嫁:「起きて!チビを探しに行くよ」
僕:「え?まだ朝の4時じゃない。こんな時間から探しに行くの?」
嫁:「猫は朝が早いのよ。急いで!」
僕は眠い目をこすりながら、あわてて着替えて外に出ました。
夜は夜で、11時くらいから猫が外に出始めるらしく、それに合わせて僕らも探しに出ることに。昼間、猫は寝ているからいいですが、こっちは働いているわけですから、猫時間に合わせるのはけっこう大変です。
こうして、何日も何日もチビの捜索は続きましたが、いっこうに手掛かりはつかめません。
嫁:「どうして見つからないんだろ?どこかで飢えてたらどうしよう…」
僕:「保健所とかにも電話したけど、それらしい猫はいなかったじゃない。どこかの家でえさをもらってるんだよ、きっと」
嫁:「どうしてそんなことが言えるのよ!この目で確かめなきゃ分からないじゃない!」
僕:「わがままいうなよ!心配なのは分かるけど、どうにもならないことだってあるだろ!」
嫁さんは、目に涙を浮かべたまま、僕の顔を睨みつけました。
嫁:「絶対に見つけ出してやる!この世にどうにもならんことなんかない!これは心配とかそんなレベルの話と違う。チビを見つけ出すのは、私の使命や!」
嫁さんは、そのまま飛び出していきました。
そして2時間後、意気揚々と戻ってきた嫁さんは、なぜか手にスイカを抱えていました。
僕:「どうしたの?そのスイカ」
嫁:「チビの飼い主がくれた。それとね、一緒に探してくれたお礼に、チビが見つかったら私にくれるって約束してくれた!だから明日も朝から探そうね!」
嫁さんの執念は、飼い主をも動かすようです。
苦難は次回に続きます。
- 犬嫁日記―それでも君を愛してる (リンダブックス)/犬飼 若博
- ¥1,050
- Amazon.co.jp