先日街中を歩いていたら

自転車屋さんの看板に目が止まりまして、

なぜかと言うと看板に


「修理を嫌がらない自転車屋」


と書いてあったからで、


「へえー、自転車屋さんて修理を嫌がるものなのか。」


とか、


「あ、新しいのを買わそうとしないってこと?」


とか勝手に想像していたら

1人のおばちゃんが自転車に乗ったまま店の看板を見上げているのに

気付きました。

おばちゃんは店に近づくと、店主らしき人物に話しかけ

自分の自転車のどこがおかしいのかということを事細かに説明しています。

僕は好奇心からその場を離れることができず、2人のやりとりを見ていました。


店主はおもむろに修理道具を広げると、おばちゃんの自転車を修理し始めました。


「おお!修理を嫌がらない。謳い文句どおりだ!」


などと感激していると、おばちゃんは店主が修理している横で

いろいろ注文を出しています。


「ブレーキがキーキー言うのよ。キーキー言わないようにしてね。」


とか、


「ベルの音が最近小さいんだけど、これどういうこと?」


とか。

それでも店主はそのおばちゃんのオーダーに嫌な顔一つ見せず

黙々と作業をこなします。


まさに自転車屋の鏡です。


感心して見ていると、修理が完了したらしく

店主が道具を片づけ始めました。

するとおばちゃんがこう言いました。


「あ、最後タイヤに空気も入れといて。」


もちろん店主は笑顔で頷きます。

オーダーが全て受け入れられた喜びからか、

おばちゃんはその後に続けてこう言いました。


「多めに入れといてね。」


この時だけ店主の顔色が変わったのを、僕は見逃しませんでした。