うちの嫁さんはある特定の人物に異常に感情移入するらしく
その人物がなにかで取り上げられている時にする会話はいつも大体決まっています。
犬嫁日記#35:『ゴッホの気持ちが良く分る』の巻
嫁さん:「ねえ、ゴッホ展に行きたい。」
僕:「ああ、今やってるよね。」
嫁さん:「ゴッホっていいよね。すごい良い絵を描いたと思うわ。」
僕:「でも非業の死を遂げてるけどね。」
嫁さん:「そこがいいんじゃない。私はゴッホの気持ちが良く分るわ。」
僕:「どう分るっていうの?」
嫁さん:「え、分らないの?」
僕:「世の中に認められない辛さみたいなこと?」
嫁さん:「そうじゃないよ、分ってないな~」
僕:「なんだよ、えらそうに。」
嫁さん:「彼がそういう風にしか生きられないところに共感するんでしょ?」
僕:「ああ、そう。」
嫁さん:「全然分ってないわ。私はゴッホと似たところがあるからね、ゴッホの悲しみが分るんよ。」
僕:「なんだか俺が全然人の気持ちが分からん人間みたいに言いやがって…」
嫁さん:「まあ、ゴッホの気持ちは普通の人には理解できないと思うよ。」
僕:「お前は一体何様のつもりだ!」
嫁さん:「仕方ないよね?分るんだから。」
僕:「耳を削ぎ落とす人の心境が本当に理解できてるとは思えないけどね。」
嫁さん:「それは無理。でも彼の良い友達にはなれたと思う。」
僕:「弟のテオみたいな存在になれたと?」
嫁さん:「テオ?誰それ。」
僕:「ゴッホを資金面で支えた弟がいたんだよ。」
嫁さん:「まあ、そんな感じかな。」
僕:「ゴッホが金貸してくれって言ってきたら、『私もない、どうしよう?』っていうタイプのくせに。」
嫁さん:「うるさいな~そんなことじゃないねん。ゴッホの精神的な理解者なの私は!
ほっといてよ!!そのタオとかいう人とは違うの私は。」
僕:「テオだよ!」
別の日
嫁:「今日、『寅さん』借りてみたんだけどさ、めっちゃ良かってん。」
僕:「また借りたの?」
嫁さん:「ねえ、『寅さん』のDVDボックスが欲しい。」
僕:「そんなに感動したのか?」
嫁さん:「なんでよ、『寅さん』すごい良い話いっぱいあるよ。」
僕:「例えば?」
嫁さん:「例えば…ほら、あのなんとかっていう有名な俳優が出てくるやつ。画家の役で。
それで寅さんに絵を描いてくれてさ。あのなんとかって有名な女優も良かったわ。」
僕:「全然伝わりません。」
嫁さん:「とにかくいいからDVDボックス買ってよ。」
僕:「俺が?自分で買えよ!」
嫁さん:「でも一つ疑問なのはさ…」
僕:「なんだよ?」
嫁さん:「あの面白さが、私以外の人にはほんとに分ってるのかな?」
僕:「というと?」
嫁さん:「寅さんはいつもマドンナにフラれて最後旅に出るとみんな思ってるじゃない?」
僕:「そうじゃないの?」
嫁:「違うよ!あれは、寅さんがそういう生き方しかできないからだよ。」
僕:「ん?どういうこと?」
嫁:「だから、寅さんは愛する人たちと一緒にいたいけど、自分がそこにいたら
どうしても窮屈になってしまうんよ。すごいまわりに気を使う人だしね。だから旅に出るしかないわけ。
その孤独な気持ちや辛さを、みんな理解できてないような気がするの。」
僕:「…」
嫁:「分る?」」
僕:「…」
嫁:「分らないの?」
僕:「いや、なんとなく分るけど、…考え過ぎの部分もあるんじゃない?」
嫁:「あ~あ、これだから分ってない人は困るわ。」
僕:「なんだよ、人の気持ちが分からん人間みたいに言いやがって。」
嫁:「とにかく、私は誰よりも寅さんの気持ちが良く分るの!寅さんの良い友達になれたと思うわ。」
僕:「リリーみたいな存在ってこと?」
嫁:「リリー?」
僕:「お前はほんとに『寅さん』観てんのかよ!」
苦難は次回へ続きます。犬