レイトショーの映画を観に行った。


ロビーで大声で喋っているテンションの高い坊主頭の年輩の人がいる。

そしてこちらは本物のお坊さんなのだろう、袈裟を着た年輩の人が二人もいる。

なんというか、全体的に変わった人が多いのだ。

こういう変わった人が集まるところはなにかが起きる予感で一杯だ。


案の定というべきか、それは予告編が始まってしばらくして起きた。

ロビーでテンションの高かった坊主頭の人が、連れの男性に

予告編で流れている映像について大声で喋っているのだ。

それはほぼ一番前の席で喋っているにもかかわらず、一番後ろに近い席の

僕にもはっきり聞き取れるくらいの大きさの声。

このままいくと、本編が始まってもこの調子で喋り続けるのではないかという

不安がその映画館にいたお客さん全員に広がった時、

一番前のど真ん中に座っていたお客さんが突然立ち上がり、

喋り続けるお客さんを殴った。


━人が人を殴るのをじかに見たのは何年ぶりだろうか?━


殴った人は真っ黒なサングラスをかけたこれまた年輩の人だった。


サングラスの人:『お前の能書きを聞きにきたんじゃない。』


そう言うと自分の席に戻るサングラスの人。

殴られた坊主頭の人は立ち上がりサングラスの人に文句を言う。


坊主頭の人:『殴ったね?今あんた殴ったね?』


すると斜め後ろの席の女の人が口を開く。


女の人:『いいから静かにして。』


思わぬところから注意を受けた坊主頭の人は


坊主頭の人:『殴られたって警察に言うからね。言うからね。』


と、席を立って外に出て行く。


静寂を取り戻した館内。

程なく本編が始まったものの、なぜか音声が出ていない。


映画館スタッフ:『申し訳ありません。音声トラブルで音が出ませんでした。

頭から上映し直します。』


僕の前の席で一斉に「じゃがりこ」を食べ始めるお坊さん二人。


やっと映画が再スタートし、しばらくすると殴られた坊主頭の人が警察官を二人連れて戻ってきた。

先程のサングラスの人を指差す坊主頭の人。

警察官の一人がサングラスの人に近づき何か小声で話しかけている。

そのあと警察官は立ち去ったが、サングラスの人はその場を動かない。


映画終了間際、再度入場してくる警察官。

サングラスの人に近づき何か小声で話しかけている。

そのあと警察官は立ち去ったが、サングラスの人はその場を動かない。


もう映画どころではないと誰もが思っていたと思う。

映画よりも劇的なことが次々発生する奇跡の映画館。


帰りに映画館スタッフがお詫びの招待券を配っていたが、

追加料金を支払ってもいいと思えるくらい、ハラハラドキドキした。


サングラスの人が無事であることを祈りつつ映画館をあとにした。