さいなら、昭和さん。 | 犬神サアカス團 犬神明オフィシャルブログ「呪ってポン!」Powered by Ameba

さいなら、昭和さん。


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お世話になった昭和精吾さんが亡くなった。
昭和さんは寺山修司主宰の劇団「天井桟敷」の名俳優だ。

17年前、そもそも俺はただのミーハーな寺山ファンだった(いや、今も)。
近所のライブハウスの予定に昭和さんの名前を見つけ「これは行くしか!」と、恐る恐る公演を観にいった。

昭和さんの公演は圧巻だった。
『アメリカよ』の絶叫に全身の鳥肌が立ったのを今でも憶えている。
そして寺山さんの想い出コーナーでは、芝居の役とは打って変わっての穏やかな雰囲気。
ただのミーハーな寺山ファンの俺にはとても有り難い公演内容だった。

終演後、おこがましいとは思いつつも、犬神のCD「御霊前」を手渡すことが出来た。
それが昭和さんとの出会いだった。

それからお付き合いが始まった。
犬神の興行に出演してもらったり、昭和精吾事務所の芝居に犬神が出演させてもらったり、CD「地獄の子守唄」では口上をやってもらったり、なにかとお世話になりっぱなしだった。
そのころ昭和さんが北砂のマンションに引っ越すことになり、芝居の大道具の置き場所がないというので、我が家で預かる事にした。

やがて犬神にメジャーデビューの話があり、ツアーやハイペースのリリースなどで忙しくなってからは
「また、いつか一緒にやりましょう!」と年賀状に書きこむだけの仲になってしまった。
もちろん「また、いつか~」というのは社交辞令でなく、俺は本気で思っていた。
切っ掛けさえあれば、いつでもなんでもやるつもりだった。

そんな切っ掛けが今年の2月に訪れた。
犬神のレコーディング中の話。
今回のアルバム収録曲の中に「ここから何かが始まる」という、1967年ころのアングラ族をテーマにした曲がある。この曲にアングラ時代をリアルに体験した昭和さんの語りをお願いできないだろうか?
思いついてしまったら、いてもたってもいられない性分だ。
さっそく昭和さんに電話をかけてお願いしたら「そんなこと、お安い御用だよ」と、快く承諾してくれた。
天にも舞い踊る気分でガッツポーズ!地獄めがけてドロップキック!

さっそく昭和さんと内容を打ち合わせ、当時のアングラ界隈の話を聴き、ラーメンをごちそうになり、一緒に街をブラブラした。久しぶりの会話は楽しかった。

その数日後、レコーディング現場で昭和さんの最高の語りを収録させていただいた。
昭和さんらしい味のある、力強くてそれでいて儚く切ない語り。見事だった。
これは他の人ではダメだ。
あの声、あの口調、あの人となり、昭和さんでなければ成立しないのだ。

レコーディングが終わり、別れ際にいつものように挨拶をした。
「昭和さん、また一緒に芝居やりましょうよ!いつでも道具は用意できますから。」
「そうだな。また『仮面劇・犬神』でもやるか。俺が生きてるうちに。 …あっ!じゃあ早くやらないとなw」
昭和さんは、昔からこういう冗談をよく言う人だったが、まさかこれが冗談ともつかない最後の会話になるとは思わなかった。

せめて「ここから何かが始まる」の完成バージョンを聴いて頂きたかった。

芝居の稽古を通じて昭和さんから教えてもらったことは計り知れない。
あのときの体験がその後の犬神作品にどれだけ反映されたことか。
本当に感謝してもしきれない。


花に嵐のたとえもあるさ 
さよならだけが人生だ

さよならだけが人生ならば
俺たちの新譜はなんになる。
さよならだけが人生ならば
我が家に眠る舞台道具はなんになる。
さよならだけが人生ならば
借りっぱなしの恩義はなんになる。
さよならだけが人生ならば
人生なんて意味がない

昭和さんがご存命のうちにもっともっと会いに行けばよかった。
昭和さんともう一度、一緒にやりたかった。


悔しくて涙が止まらない。