目標
よく「目標をもて」と言われたりします。こう言われても若い人などは、経験が少ない中で何が自分に向いていて何が好きなのかを自覚し進路を迫られたりします。またやりたいこともほぼ経験済みで夢や好きなことも趣味も特にない人は、空虚な掛け声に聞こえるかもしれません。
- 目標とは、目的を達成する一過程の目印です。
- 目的とは、得たい対象、事柄、状態などへ到達する行動を方向付けするものです。
目標をもてと言われたときの違和感は、目的を飛び越えて手段を先にもてと言われるからではないでしょうか。目的には、「得たい」という動機があることから思考、感情、欲求などが先に存在していると考えられます。ではなぜ「目的をもて」と言われないのでしょうか。
それは、自分自身にしか目的を見つけ出すことができないため主語が暗黙的に省略されているのだと考えられます。しかし自己の目的が何かを明確に定義しその実現のために目標を立てて行動している幸運な人は、ごくわずかだと思われます。
例えば、生きがいを見つけた人やライフワークを見つけた人たちです。
目標の前に目的を見つけることについて考察していこうと思います。
●目的
◇質問ツール
- 「質問や相談の中に答えがある」
- 「答えがあるのに質問や相談をする」
後者は、自分の判断に賛同を得て自信を強化し責任を分散し安心を得ようとするものですが前者は、自分の判断と責任を相手に依頼していることから類似点があります。また前者と後者は、疑問や課題を認識している点でも類似点があります。
この質問や相談を自分自身にすることで自己の目的に近づけるのではないでしょうか。
◇自分自身にする質問
- 最も強い負の感情に対して「なぜ?」と質問してみましょう。
- 最も強い正の感情は「なに?」と質問してみましょう。
※質問は、自分に合った言葉や方法でかまいませんし答えがすぐに出なくてもかまいません。
◇質問で答えを探すプロセスが開始する
人間には、今自分が持っていないものを埋めようとする性質があります。それは、渇望、欠乏、隙間、もやもや、悩み、不満など様々な形で表現されます。人は、質問されるとその答えを探して埋めようとするプロセスが意識的および無意識的に動き出します。そして答えを求める感情や欲求の強さに比例して潜在意識に深くその質問が設定され自動的に答えが探し続けられます。
例えば、何か答えを求め続けても見つからずその場で諦めたことが年月を経て本人すら忘れていた時に普段は聞き流す人との雑談や情報媒体から偶然を装い答え、理解、気付などが得られた経験がある人もいると思います。
これは、「自己ナビ」で触れたように潜在意識下に探し出したい対象がロックオンされてその対象に対する感度が高くなり「心の集中の特性」で触れた情報の選択効果による必然であった可能性があります。
◇良い質問とは
良い質問ほど良い答えを引き出せますがそれは、核心を突く具体的な質問です。インターネットの検索エンジンで知りたいことを探す場合に例えてGoogle検索キーワードを抽象的な場合と具体的な場合で得られる情報を比較してみます。
- 抽象的な[目標]の場合:1億9千300万件ヒット
- 具体的な["目標" "自分自身" "源流を辿る旅"]の場合:8件ヒット※
※2017/01/16時点の検索ヒット件数
知りたいことを探し出す場合に前者は、困難ですが後者は、容易です。
◇答えは自分の中にある
生きがい、ライフワーク、居場所などの目的を見つけ出すためには、自分自身に具体的な質問をする必要がありそうです。しかしそれができれば苦労はないし悩みなどないと思うでしょう。それは、「知らない自分」で触れましたが人は自分自身のことを意外にも知らないことが多く具体的な質問をするためには、自分をある程度知らなければならないという矛盾があるからです。
しかし自分自身にする質問は、自己を対象化し目を向け耳を傾け潜在意識に答えを探すプロセスを開始させることです。そして「対象は自己を知り反応を変える手がかり」で触れたとおり対象に対する感情が自己を知る手がかりとなります。すぐに答えが出なくても感情のルーツを質問により辿ってみましょう。
●計画
◇目的の次は?
目的が見出せたなら次は、目標を立てることなのでしょうか?ここでまた目標をもてと言われたときの違和感は、さらに増してきます。
目標を立てるには、一般的なプロジェクトでいう計画(事業目的・目標、事前調査、営業、提案、契約、資源調整、日程、段取、設計、製作、試験等々)の工程毎に大小様々な作業項目や目標が抽出されます。個人では、目的と目標が一致するシンプルなもので計画が必要ないものもありますがそれでも目標を立てる前に似たような無意識的な思考と行動の過程を経ていることに気が付きます。
例1:
休日の朝に目が覚め空腹を感じて家を探しましたが料理が必要な食材しかありませんでした。そこで近くのコンビニ弁当にすることにし所持金、天気、気温を確認したら雨で寒そうだったので自動車で買いに行きました。この場合は、空腹を満たしたいという動機が「目的」でありコンビニ弁当を買うという選択が「提案、契約、目標」であり家の食べ物探しや所持金、天気、気温の確認が「事前調査」であり所持金や自動車が「資源調整、日程、段取など」に相当すると考えられます。
例2:
海外旅行へ行きたい時に事前に渡航費(パスポート、ビザ、航空券、ホテル、買い物、食事)を調べたり、いつ、だれと、どこへ、なにをしに行くかをだいたい計画を決め目標を立てて旅行に行くと思います。ツアー旅行では、ツアー日程表が計画に相当しいつ、どこに集合するとか書いてある項目の一つ一つが目標と考えられます。
このように目的を達成するには、計画内の大小様々な作業項目や目標群を抽出・分解し具体的に意識化するのが鍵になりそうです。
●目標
目標に辿り着くまで回り道をしてきましたがここで少し振り返ります。
目標を立てるには、以下のような過程があると考えられます。
存在(遺伝、本能、人格など) ⇒ 潜在意識(感情、欲求、深層記憶) ⇒ 顕在意識(表層記憶・思考) ⇒ 目的(動機) ⇒ 計画 ⇒ 作業・目標群の抽出 ⇒ …
上記のように深層部の情報が表層部に伝達され意識化されることで思考が生起し目的(動機)以降の過程が始まるとのだと考えられます。しかし実際には、大小強弱多様な目的(動機)があり弱いものは意識化や焦点化も弱いため無形の空想に留まり言動まで表出されません。また「小さなことから行動力を培う」で触れましたが顕在意識の思考がいくら強く望んだとしても潜在意識下の感情や欲求が望んでいないものは、打ち消し合い強い目的(動機)とはならず達成が困難になるでしょう。
例えば、義務や強制から派生した思考により生起した目的(動機)、計画、目標に感情が反発しやる気が出なかったり体(欲求)が思うように動かない経験をした人もいると思います。※
※別記事「思考・感情・欲求(体)のバランスを回復する方法」参照
このように考えると強い目的(動機)があるものでかつ計画、作業、目標群を実際に達成したものだけが我々が身近に目にしている商品、サービス、芸術などであると考えられます。
◇目標の重要な役割
前記の目標を立てる過程の考察では、潜在意識下の無形なる目的(動機)が徐々に有形なものへ具象化しています。この過程で起きているのは、抽象から具体、曖昧から明確、概略から詳細だと考えられます。そしてこのときに重要なのが目標で対象が前後左右上下の何処に在り距離がどの程度なのか焦点が合い何なのかを捕捉できなければ何時、何処へ行き、何をすればいいのかが解らないからです。
◇目標の意味合い
目標(目印、標識、標的、ランドマーク)は、五感(視・聴・触・味・嗅)から入る膨大な情報(不要なものやノイズを含む)から目的に適合する対象を識別し焦点を合わせるガイドの役割があります。目標は、背景にある計画と目的の意味を理解しながらも行動してみると実状が異なり達成が困難なことも多々あります。それは計画が未来の実状を事前に把握することが困難で天候のように変化するためです。しかし事前の調査を十分行えば計画の精度を向上させることも可能ですしリスクを把握しプラン1、2、3…など複数準備して柔軟性を向上させることも可能です。
そして一つの目標が達成できなくても気落ちして目的まで諦める必要は、ありません。
計画は、ある意味で机上の未来予測で目標は、実現ルートの識別子として常に複数分岐路に存在し再選択が可能だと考えられるからです。
●まとめ
目標がないと何時、何処へ行き、何をすればいいのかが解りません。そして我々の周りには、娯楽、嗜好品、刺激的な情報などが溢れており暇つぶしには、事欠きません。老子・荘子の「無用の用」は、遊び、暇つぶし、寄り道など人生を豊かにしたり新たな目的の発見に繋がることかもしれません。
しかし何か重要なことから逃避するために寄り道し過ぎると自己忘却し目標が自己目的化し休息していると何処からともなく不安に駆られることがあります。
その時は、少し振り返り目的を見つめなおし計画と目標を立て行動することで「有用と無用」のバランスを取ることも必要だと思います。
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