進歩と退歩

今回のテーマは、地球上の生物が遠大な時間をかけて驚異的な進化を遂げ時に繁栄しまた絶滅しているのに対し人間は、どのように変化し何を得て何を失ったのかを考察していこうと考えます。

このテーマを選んだのは、生物界で進化しても環境が変われば絶滅し進化していないものが生き残ることがそれほどめずらしくない点と人間が進歩を何かに迫られるように推し進めようとする背景に何があるのかを少しでも明らかにしていきたいと考えたからです。

●はじめに

◇考察に入る前に言葉の違いについて整理します。

  • 【進化】: 生物群が生息域の自然環境に世代を経て適応することで構造、機能、能力などが変化し生き残りに有利になることで1個体の成長や形態の変化は、含まれません。
  • 【退化】: 進化の過程で一度得られた構造、機能、能力などが消失や縮小したりすることですが自然環境への適応という意味では、進化の一部です。
  • 【進歩】: 物事、技術、能力などがよい方向、望ましい方向へ進んでいくことです。
  • 【退歩】: 物事、技術、能力などがわるい方向、望ましくない方向へ進んでいくことです。

言葉の定義として異なるのは、進化と退化が長い時間スケールの中で自然環境と調和し起こることですが進歩と退歩は、短い時間スケールの中で人が判断し一方向にとらえて退歩は、進歩の一部とは見なされずその対象が広範囲にわたることです。

◇人間も進化していくのか

人間も他の生物と同様にやがて突然変異し環境へ適応し進化していくと考えられますが進化は、何百万年スケールで起きることであるため人間が他の生物と異なる点を主眼に考察していきます。

●人間が他の生物と異なる点

他の生物が自然環境に適応し進化することで種の生存率を向上させるのに対し人間は、自然環境を作り変えることで生存率を向上させる点で異なると考えられます。

◇人間の進歩

人間が他の生物と異なるのは、以下のような点ではないでしょうか。※

  • 自然環境を作り変え他の生物から捕食される脅威を排除できる。

  • 農業や物流網の発達などで食糧を安定的に供給できる。

  • 病気や怪我を治療できる。

  • 道具や機械の発明により進化で得られる構造、機能、能力などの代用ができる。(例.羽:飛行機、鰭:船、体毛:衣服など)

  • 情報を言葉で記録し共有できる。

  • 遺伝子解析、遺伝子操作などの技術の進歩。

上記などから考えると人間は、進歩により自然淘汰の枠組みから外れつつあるように見えます。一方でまだまだ自然災害には、無力であり食料は、自然界の生物の命の恵であり病気や怪我を治療できないものが多くあります。

 

※簡単な道具を使えるものや食料を備蓄したりきのこを栽培する蟻などの社会的動物も存在します。

◇生存競争の変化

前記で考察した人間の進歩により人の生存率は、飛躍的に向上し生存競争で脅威になる対象が変化しました。それは、パンデミックや自然災害などを除くと同類の人間だと考えられます。

◇適応対象の変化

自然環境への適応度がわずかに違うだけで生物の生存率に大きく差が生じることがあります。人間は、自然環境を作り変えるのに加え道具や機械を用いることで適応度もある程度変えることができるようになりました。このような人工的な環境下で生存競争の対象が同類の人間に変化していく場合の適応度とは、なんでしょうか。それは、人間が作り出している社会環境への適応度だと考えられます。自然環境という大きな枠組みの中に人間が作り出した社会環境がどのような影響を与えているのかを次に考察していきます。

◇社会環境が自然環境へ与える影響メモ

人間の経済活動が生態系へ影響を与え他の生物が絶滅する危機(既に絶滅種あり)が増大しています。具体的には、人間の利便性を高めるための造成やエネルギー消費、工場生産などで排出される物質、さらに種が絶滅するまで取り尽くそうとする生物の争奪などです。これらの経済活動は、人間にのみ有益に働く活動であり他の生物には、排他的な影響を与え生態系のバランスを崩しています。一方で環境規制や絶滅危惧種の選定(レッドリスト)などによる保護活動も行われていますが一定の効果は、あるものの影響は深刻さを増しています。

食物連鎖(食物網)からの分離

生態系における栄養素の物質循環は、生産者(植物)、消費者(動物)、分解者(微生物)などの構造で生物間の個体数や環境とのバランスを維持しています。生態系の中で消費者のヒエラルキーが上層へ行くほど種の固体サイズは大きくなり生息数は少ない傾向になります。生息域の捕食対象生物量に限りがあるため個体数が増え過ぎると食料不足で生存競争が激しくなり個体数が調整されるためです。人間は、他の生物に捕食される脅威から解放され消費者(動物)の頂点に位置し生存競争から分離し個体数も環境とのバランスをとることがなくなりました。さらに分解者(微生物)へ遺体や排出物を栄養素として物質循環させることも減少しています。

◇自然の生存競争から分離した影響

人間が進歩により自然の生存競争から分離したことで起こることは、以下の様なことだと考えられます。

 

・人口は、増え続ける。(人口爆発

但し自然の環境問題、食料問題、人口問題を解決できなければ人間どうしの生存競争が激化し人口数は、調整される。

 

・拡大指向は、止まらない。

生物が種の個体数を増殖拡大し生存率を向上させようとするは、本能的に自然なことでありまた生物の本能とは、関係ありませんが進化し種の生存率が向上するのも自然なことであると考えます。しかし自然界では、天敵による捕食や食料不足などで個体数の無制限な増殖拡大は抑制されバランスが保たれています。一方で人間は、進歩により増殖拡大し種の生存率を向上させようとする点で異なりまた個体数の無制限な増殖拡大を抑制しバランスを維持されることも今のところありません。(人口抑制策(一人っ子政策)等一部の国ではありました)

◇人間社会内の生存競争

これまで生物の進化・退化と人間の進歩・退歩の違いや人間が進歩により自然の生存競争から分離し同類の人間社会内での生存競争に移行したことを考察してきました。人間社会内の生存競争は、命のやりとりなどに発展することは少なく市場経済による一定のルールに基づく商品、サービス、貨幣、資源、労働力などが取引され競争になります。

●人間は、何を得て何を失ったのか

他の生物から捕食される脅威と食料確保の課題から解放され更に道具や機械で自然環境に適応し生存率が高くなり市場経済で比較的安全に市場に参加し利益を得られるようになると何が起きるのでしょうか。それは、以下のようなものではないでしょうか。

  • 「社会へ適応・同化することでの安心」
  • 「計画的で安定した生と緩やかな死」
  • 「通貨、資源、権力、進歩など」の拡大指向
  • 「過去や未来に対する恐れ、不安、悩み」

自然界の生存競争では、今日明日にでも捕食される脅威や老い、病気、怪我などで弱るとすぐに狙われ餌食になるなど過酷なものがあります。常に過酷な生存競争にさらされている生物は、今に集中し最大限に生きる能力が発達していますが人間は、未来の計画的な人生設計や過去の経験からの学びを生かす能力が発達した反面で今を生きる能力が退歩しているのかもしれません。また社会へ適応・同化することで一定の安心は得られますが飽和した社会では、差が求められるようになるため淘汰される強迫観念から進歩や拡大指向を推し進めているのではないでしょうか。

 

今に集中し最大限に生きる小さな挑戦をしてみるのもいいかもしれません。

 

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