自己信頼を高める方法
今回は、自己信頼を高める方法をテーマに考察していこうと考えます。このテーマを選んだのは、人生において一つの指針になると考えたからです。
自己信頼について有名なのがラルフ・ウォルドー・エマソン(1803年)著の「自己信頼」という本でH・D・ソロー、ニーチェ、宮沢賢治、北村透谷、福沢諭吉など古今東西の思想家や詩人、文学者に影響を与えたと紹介されています。
この本は、100ページほどで読みはじめると大胆で思い切りのいい表現により利己主義、自己愛、傲慢不遜という印象が一瞬よぎるのですが読み進めると自己受容、自己発掘、自立、ありのままの生き方などを説いているのに気が付きます。そして情報の渦に巻き込まれ多勢に流され過去に引きずられがちな中で自己の本質を発掘し誰とも違う個性の光を取り戻し自立することが内なる平和をもたらすと説いているのだと思います。
●誕生からの信頼
誕生から自己信頼の変遷を遡り考察していこうと考えます。
◇親の生み育てようとする思い
人や動物のDNAに内在する生命を継いでいこうとする親の本能が子に存在する意味を付与する原初の信頼だと考えられます。そして原初の信頼は、父母(母親だけでも)の生み育てようとする愛情を子は受け取り存在を受容され信頼するのだと考えられます。
◇誕生の信頼
誕生時の赤ちゃんは、まだ親とつながっており親を経由して外界とつながっています。自分と親は、連続体として認識され親は最も頼りになる庇護者であり代理の体であり信頼の拠り所でもあります。この時期に自分の欲求などを親に伝える方法は、感情とボディーランゲージで親もそれを見て愛情をそそぎこたえます。
◇自己信頼の変遷
感覚器官が発達し外界を認識し体を動かせるようになってくると自他の識別がはじまり親とも区別されはじめます。成長とともに自我が形成されはじめ徐々に親への信頼から自立への自己信頼に移り変わりはじめます。
◇社会環境に適応
自立への自己信頼に移り変わる過程で、あらゆる対象(自分を含む物事)に名前、意味、価値を付与する知識と経験を経て社会的価値観に適応しはじめます。この社会的価値観と自己価値(見た目、能力、人脈、財力、持物など)の優劣、価値などの差を評価することにより自己の信頼度合いをはかるようになります。いつのまにか自己信頼の基準が内在する生命の原初の信頼や自立への自己信頼から外在する社会的価値基準へと移り変わっていることに気が付きます。
◇社会環境の変遷
過渡期にある物事には、混沌から調和に導き安定させるために標準化や均一化することが最も効率のよい価値ある手段だと考えられます。しかし安定期に入り飽和状態になると過当競争になり真新しい価値のあるものは、あっという間に情報が拡散しコピーされ古びたものとなり短命で価値がなくなります。社会に適応するためには、一定の教育、法律、道徳、マナーなどを守り自分の能力を社会が必要とする基準まで高める必要があります。しかし社会環境の変遷に追従し自己価値を維持するには、新しい付加価値を自ら生み出す必要性が生じるため自己の価値や能力を信頼することが難しくなり疲弊し閉塞感や息苦しさを感じている人も少なくないと思います。
◇自己信頼とは
自己信頼とは、自分の過去の価値、能力、個性、行動、実績などを信じて未来の行動への頼りにし期待することです。この自己信頼の高い人は、行動力もあり大きな成果を上げる人が多い反面で過信、妄信、狂信などで大きな失敗をする人もいると思います。ではバランスよく自己信頼を高めるにはどのような方法があるのでしょうか。
●自己信頼が低下する原因
◇外在化する自己信頼
社会に外在する標準的な価値観と自己を比較し追従し適応することは、益するとともに利することでもあり相互に良いことだと考えられます。その反面で人間自身を標準化や均一化し没個性化する枠組みにも適応することを意味します。また所属する組織や集団の定義する標準的な価値により自分を面接、試験、実績などで評価されることにもなります。
社会に外在する価値基準で他者に自分の評価を任せ自己価値が決定されるとするならば自己信頼も外部に委ねられることになります。もちろん評価を受け入れるか拒否するかの選択権は、自分にありますが数値などの客観的なデータで示される場合もあります。
◇価値とは
価値とは、役に立つ度合い、相場の値段、交換価値などの意味です。
市場相場では、過剰に供給されれば下落し不足すれば高騰し悪材料で信用を失えば弱気になり低下し好材料で信用を得れば強気になり上昇します。このように価値とは、立場、信用、感情、欲求、需要と供給、物事(好/悪材料)などによって左右される人が作り出しているものです。人は、市場相場で取引される品物とは違います。しかし雇用契約という取引で同じように労働の市場にのり役立ちまた消費されているのだと考えられます。
◇個性は、希少性
社会が成熟期、老年期を迎え同じような人、考え方、物で溢れ飽和し行き詰っているならば少し立ち止まり果実が熟して甘く深みを増したことをじっくりと味わうように自分の個性を発掘するのも良いかもしれません。そうして誰とも違う個性が希少性の価値であると気付き大切に思えるようになると自己信頼も高まると思えます。そうした中から果実が熟しきり地上に落ちて種が芽生えるように新しい価値が見出されるのだと思います。
●自己信頼を高める方法
社会的価値観に適応し同化した集団や他者に自己の評価を委ねることで自己価値が決定され自己信頼の確立が困難になる過程を考察してきました。しかしこれは、利用価値であり存在価値とは異なりますが、なぜ同一視される傾向があるのでしょうか。それは、我々が利用価値という交換条件付きの許容に過剰に適応しているためです。
例えば、親の言い付けを守りいい子にしている時は受容し褒められ、言い付けを守らずわるい子にしている時は叱られ遠ざけられた子供の頃の経験があると思います。社会にでても所属する組織や集団の定義する標準的価値基準を満たさなければ許容されないのは同様です。
利用価値には、交換条件がありますが存在価値には、条件がなく存在そのものを受容する点で異ります。しかし自分の属する集団や他者の多くが利用価値と大量消費に過剰に適応し行動しているため子供の頃から大きく影響を受け利用価値と存在価値を同一視し識別ができなくなるのだと考えられます。
一方で偉人は、自己を深く洞察し自分が何者で何を欲し何ができるのかを見つけ出しその存在価値を信頼し他者との比較や自己の欠乏を埋めるための行動を排し自らを能動的な原動力とし行動し続けたのではないでしょうか。
◇自己を知る
自己信頼を高めるための第一歩は、自己を深く洞察することです。
自分が何者で何を欲し何ができるのかを知らずに自己の存在、価値、信頼、目的、目標を明確にすることはできないと考えられます。そして欠乏を埋めるだけの日々にあてどなく漂流し埋没していたのでは、自己受容もままなりません。自己を知るためには、心の構造、機能、役割などに関する知識(*1)と心の集中と意識化に関する技術(*2)を習得する必要があります。
それでは、なぜ既に知っているはずの自分をあらたに知りなおさなければならないのでしょうか。それは、意識化できない潜在意識下にある自動反応プログラム、自己像、見たくない抑圧された記憶などが存在しているからです。そして、「心の機能」で触れたように人の言動の大半が過去の潜在意識下にある自動反応プログラムにより成り立っているからです。
言い換えると五感から入る刺激に真新しさや大きな違いがなければ過去の自動反応プログラムが実行され細部が意識化されず体験が通過してしまいます。この時の自分の自動的な言動や癖がどのようなものか客観的に知ることができないため自己を観察する必要性が生じます。
*1 「心の機能」の記事やリンクしている関連記事を参照してください。
*2 意識化する技術とは、主観的な心から客観的な視点を分離する技術です。(詳細は、別の記事で書いていく予定です。)
◇意識化することで得られるもの
無意識の自動的な反応である思考、感情、欲求(体)とそれが動機となり表出される言動や癖を客観視できるようになると外界からの刺激情報と自分の反応の因果律が徐々に明らかになります。それは、過去の類似した追体験反応であり現在の生きた体験ではないことに気が付きはじめます。そして追体験反応が悪い癖やもう必要のないことであると意識化できたときに自分の理想とする別の反応に変えようとする動機が生じます。
「対象は、自己を知り反応を変える手がかり」で触れましたが一方の極性(この例では、悪い癖)が意識化されるとその対極(良い癖)も同時に意識化されます。このとき対極が意識化される基準の軸とはなんでしょうか。それは、悪い癖と良い癖の判断を分ける自己の中にある価値基準であり理想や望んでいる方向性だと考えられます。
無意識の自動的な反応を意識化できれば自己の価値基準や本質的な望みを知り存在価値と利用価値を識別し自己を変える動機づけになることから人生において意味があると思われます。
◇存在価値を意識化する
人の内面的な存在価値を外界からの刺激情報による受動的な反応を意識化することで確認する方法を考察してきましたが、これとは、別に能動的な自立行動により自己の存在価値を意識化する方法について考察します。
- 能動的な自立行動とは、他からの支配、助力、圧力を受けずに自らを動機とし決めた目標を行動に移すことです。
- 存在が現実へ接触し関与する行動とその結果を実感することが自己の存在を意識化し存在価値を高めます。※
- 自分で決めた目標と行動の約束を守ることが存在価値を高めます。
- 存在を意識化する上で目標や結果の大小は、あまり重要ではありません。(他の何かと比較する必要性はありません)
上記は、文章にすると実行する上で非常に困難に思われますが最後の「目標や結果の大小は、あまり重要ではない」点に着目すると自己の存在を意識化し実感できればよく数秒で完結できる小さな行動目標でもいいことになります。
例えば、玄関の靴をそろえたり、ごみを一つ拾いくずかごに入れたり、首や肩を一周回すストレッチをしたり、散歩にでたり簡単なことでも自分が決めた行動目標を守り続けることは、自己価値を高めるとともに自己信頼も高めます。
※思考、感情、欲求(体)の何れか一つだけでは、実感をともなわないため協調行動が必要です。(「小さなことから行動力を培う」の協調行動を参照)
●まとめ
これまで社会に過剰適応する過程で外在化する利用価値と自己の存在価値を同一視し自己価値の確立が困難になることを考察してきました。利用価値も人が作り出した社会に必要な共有概念ですがそれだけでは、人生の中で老い、病気、怪我などで利用価値の低下に直面したとき社会に消費されてきたことに気が付き自己無価値感に苦しむかもしれません。
しかしその苦しみも自己の個性の光を見つけ出す手がかりであると考えると感慨深く思います。
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