【民主主義は、横暴な権力者の追放から始まることについて】

アメリカの連邦議会でトランプ大統領に対する弾劾手続が開始されました。トランプ大統領は有罪となり、罷免されることになるでしょう。



合衆国憲法第2章第4条は、「大統領が、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき 弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる。」と規定しています。

2019年7月、トランプ大統領は、ウクライナの大統領に対し電話をかけ、来年のアメリカ大統領選挙に立候補しているバイデン前副大統領に不利な情報を集めるよう要請しました。

その際、トランプ大統領は、ウクライナに対する数億ドルにおよぶアメリカの軍事支援を一旦ストップし、ウクライナの大統領が要請を断れないよう圧力をかけました。

これは、アメリカ政府の軍事支援を使ったゆすりであり、強要罪にあたります。しかも、来年の大統領選挙で有利になるためという個人的利益のために政府の予算・国民の税金を私物化し、安全保障という国家の利益よりも、個人の利益を優先させたという点で、きわめて違法性の高い重大な犯罪になります。

このため、トランプ大統領が弾劾手続を経て、罷免されるのは時間の問題です。

弾劾手続は、アメリカ連邦議会の下院が単純過半数の賛成に基づき訴追を開始し、これを受け、上院が裁判を行い、上院出席議員の3分の2の多数の賛成で弾劾の決定をすることになります。


[弾劾手続開始を宣言する民主党ペロシ下院議長]

現在、下院は野党の民主党が多数を占めており、訴追の開始を決定しています。これに対し、上院は共和党が多数を占めています。しかしながら、今後、弾劾手続が進行し、下院で多くの証人が証言を行い、事実関係が明らかになるにつれ、世論がトランプ弾劾に傾き、それにともない、共和党上院議員の多くが弾劾やむなしの立場に変わると思われます。

トランプ大統領は、政府関係者に下院で証言しないよう圧力をかけていますが、これ自体が犯罪行為を隠蔽する司法妨害の罪にあたります。

圧力にもかかわらず、前駐ウクライナ・アメリカ大使は下院で証言し、トランプ大統領が、正式な外交ルートである大使を迂回し、大統領の個人的な弁護士を通じてウクライナ政府に接触していたことを明らかにしています。[1][2]

また、かつて弾劾手続を進め、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ元特別検察官17名が連名でワシントン・ポスト紙に投稿を行い、現在明らかになっている事実だけでも、トランプ大統領は弾劾に値すると表明しています。[3]


[ペンス副大統領(左)とトランプ大統領(右)]

今回のウクライナに対するトランプ大統領の圧力工作には、ペンス副大統領やポンペオ国務長官も関与していると思われ、トランプ大統領が罷免されれば、ペンス副大統領も、ポンペオ国務長官も、政権を去ることになります。

その場合、法定の順位によりペロシ下院議長が大統領に就任することになります。


現在、アメリカでは、テレビもラジオも、朝から晩まで、弾劾手続に関する報道が行われていますが、日本では、弾劾手続に関し、ほとんど報道が行われていません。首相官邸が、メディアに圧力をかけ、報道統制をしているものと思われます。

安倍首相は、トランプ大統領が頼りです。トランプ大統領が罷免され、アメリカで民主党の影響力が拡大すれば、安倍政権も終わりです。これまで、トランプ政権と安倍政権を忖度し、トランプ政権、安倍政権に有利な報道を一方的に行ってきた日本のメディアも、一転して安倍政権への批判姿勢を強め、あっという間に安倍政権は崩壊するでしょう。



さらに、民主党のペロシ下院議長が大統領に就任し、あるいは、来年の大統領選挙で民主党の大統領候補が勝利すれば、日本でもすぐに総選挙が実施され、政権交代が実現し、自民党は下野することになるでしょう。

その場合、日本の新政権は、国会が選任する特別検察官の制度を創設し、安倍、麻生、世耕、菅、甘利らを訴追し、有罪判決・投獄へと追い込むことになると思われます。

さらに、職権を乱用した警察官僚・検察官も訴追され、有罪判決を受け、投獄されることになります。

問題は、これらの動きが、アメリカの民主党とその背後にあるヨーロッパ系の国際金融資本主導で行われ、日本国民はただの傍観者にとどまっていることです。

その場合、日本の政権交代も、ひとつの大資本から別の大資本への権力のたらい回しに過ぎず、日本におけるヨーロッパ系国際金融資本の影響力拡大につながるだけでしょう。外国資本の支配の深化が進むだけでしょう。

日本が、本当の民主国家になるためには、国民のひとりひとりが、「法の支配」「政府の説明責任」「多数決の原理と少数者の権利の保護」「司法の独立」などの民主主義の原則を理解し、行動によって民主主義の原則を体現する必要があります。

古代ギリシャにおいても、古代ローマにおいても、民主主義は専制的な権力者を追放することから始まりました。

古代ギリシャでは、直接民主制が行われ、陶片追放の制度により、横暴な権力者は追放されました。

古代ローマでは、横暴な王が追放され、そのあと、別の王を据えるのではなく、王制そのものを廃止し、有力者が元老院を構成し、合議で政治を行う、共和制が制定されました。


[古代ローマの元老院における議論の様子]

これに対し、日本では、歴史上一度も、民衆が権力者を追放したことがありません。天皇も将軍も、追放されたことがありません。権力は、天皇や将軍の間でたらい回しされてきただけです。民衆は、常に傍観者でした。いまだに、日本では国民は傍観者のままで、民主主義の原則を理解している日本人は、ほとんどいません。日本人は、常に、誰に付き従うかを考えているだけです。

日本国民のみなさんが、本当に自由と権利、平和と独立を得たいのであれば、民主主義を進化させ、国民のみなさん自身が決定権を持つ必要があります。そのためには、ドイツのように、労働組合の活動を活発化させ、各地域に多様で活力のある中小企業を成立させ、地方政府の権限を強めるとともに、再生可能エネルギーを通じた、分散型の経済成長を実現させて行く必要があります。

民主主義は、共同行動です。自分ひとりが得をしようとするのでなく、みんなで協力して権利と自由を獲得して行く。それが、民主主義です。

国民が、自ら真実の情報を集め、自ら議論し、自ら決定する。それが、民主主義です。

政治家や政党が提供する政策メニューを受動的に受け入れるのでなく、国民のみなさん自身が政策レベルで決定権を持つ必要があります。国民のみなさん自身が、日本をどういう国にしたいのか、ヴィジョンを持つ必要があります。細かい規定や細目は、政治家や官僚にさせれば良いことです。しかしながら、内政・外交における大原則は、国民のみなさん自身が決定する必要があります。

日本国民のみなさんが民主主義を進化させ、決定権を持たない限り、たとえ政権交代が起こっても、今後も、官僚であれ、アメリカ保守派であれ、ヨーロッパ系の国際金融資本であれ、国民のみなさん自身以外の勢力が決定権を持ち続けることになるでしょう。その結果、日本国民のみなさんは、権利と自由、さらに平和的生存権までをも失うことになるでしょう。


参照資料:
(1) "Why Trump can’t stop all witnesses from testifying in Congress’s impeachment inquiry", Washington Post, October 12th 2019

(2) "Read Marie Yovanovitch's prepared deposition statement", Washington Post, October 12th 2019

(3) "We investigated the Watergate scandal. We believe Trump should be impeached.", Washington Post, October 11th 2019


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。