【既存秩序破壊のために高関税・経済恐慌から戦争を起こし焦土化することが、アメリカが繰り返し用いるシナリオであることについて】

アメリカは、その経済的・政治的・軍事的影響力を拡大するために、繰り返し同じシナリオを用いてきました。それが、既存秩序を破壊するために高関税・経済恐慌から戦争を起こし焦土化するというシナリオです。以下、ご説明させて下さい。


1. 南北戦争と北部による南部の大農園・奴隷制秩序の破壊

アメリカは、19世紀に入り急速に工業化が進みました。しかしながら、北部で工業化が進む一方、南部では大農園と奴隷制に基づく綿花栽培が基幹産業であり、工業化の進展が遅れていました。さらに、北部が国内工業保護のため輸入品に対し高関税をかけたいのに対し、南部は海外からの輸入品に依存し、低関税を望むという状態でした。

そのため、経済的利害の対立が政治的・軍事的対立に発展し、ついに1861年、南北戦争が起こりました。



工業化が進んだ北部は、高性能の武器を大量に投入しました。北軍は、南部の大農園・奴隷制に基づく既存秩序を破壊するため、南部の内陸地帯から沿岸部に至る広大な地域を焼き払い、焦土化しました。さらに、南部の綿花産業を支える鉄道網を徹底的に破壊しました。そして、奴隷解放宣言を発し、奴隷制を葬り去りました。


[焦土と化した南部連合の首都リッチモンド]

その結果、アメリカは工業国として統一され、その後の急速な経済成長が実現することになります。


2. アメリカによるヨーロッパ植民地体制の破壊

南北戦争後、工業化の進んだアメリカが、西海岸まで国土を拡大し、海外に目を向け始めた19世紀末、アメリカが目にしたのは、アジア・アフリカがすでにヨーロッパ諸国により分割され、植民地化されているという状況でした。ヨーロッパ諸国による植民地体制は、きわめて強固であり、アメリカの企業・商品がつけ入る隙はありませんでした。

さらに、アメリカは、第1次世界大戦では、連合国側に立って参戦したものの、イギリスとフランスに都合良く利用され、アメリカ軍はイタリア戦線に投入されたものの、得るものはほとんどありませんでした。

そのため、アメリカは、ヨーロッパ諸国の植民地体制を破壊することを画策することになります。

ただし、アメリカは、ヨーロッパ諸国と直接戦争を行うことは避けました。その代わりに、アメリカが植民地体制破壊の道具として利用したのが、ナチスドイツと日本帝国でした。

ナチス党をアメリカの投資銀行が財政的に支援していたことは、いまでは公然の事実です。

また、債権国アメリカは、イギリスが大戦中発行した国債の返済に窮していることに乗じ、イギリスに対し、日英同盟の破棄を要求しました。イギリスとの同盟関係を失った日本は、関東大震災とその復興過程で、イギリスに代わり、アメリカのウォール・ストリートの影響を強く受けるようになって行きます。

1929年、アメリカのウォール・ストリートを起点に発生した大恐慌の影響で、世界各国は経済不況に見舞われました。ヨーロッパ各国およびアメリカは、輸入品に高関税をかけ、ブロック経済化が進みました。その結果、ドイツと日本は、対外侵略に活路を見出すようになります。

ドイツは、フランスとの国境地帯に進出したあと、オーストリアを併合、チェコスロバキアを分割します。一方、日本は中国への侵略を進めて行くようになります。

そして、第2次大戦が勃発し、ドイツがフランスを占領し、イギリス本土も脅かすようになると、アメリカの思惑通り、ヨーロッパ諸国は、植民地を守る余裕がなくなります。

それに乗じて、アジアでは、日本が仏領インドシナに進出、さらにイギリスの植民地であったマレーシアからシンガポールを占領し、蘭領インドネシアも占領しました。日本の海軍は、イギリス極東艦隊の主力を撃破し、残余のイギリス艦隊は、インド洋から駆逐され、遠くマダガスカルまで退避することになります。アメリカの思惑通り、アジアにおけるヨーロッパ諸国の植民地体制は崩壊しました。

アメリカは、ドイツがヨーロッパ諸国を蹂躙し、日本がアジアにおけるヨーロッパの植民地体制を破壊するのを十分見届けた上で、1942年から徐々に本格的な参戦を行なうことになります。

ただし、当初、ヨーロッパにおいて、アメリカは、北アフリカとイタリア戦線で戦闘を開始したのみでした。ドイツとソ連が東部戦線で死力を尽くして戦い、消耗し合うの待っていたわけです。アメリカがフランス上陸作戦を実施し、西部戦線を開いたのは、ずっと遅れて1944年でした。ヨーロッパの広範な地域が焦土となりました。




[アメリカ軍の空爆で焦土と化したドイツ東部の都市ドレスデン]

一方、アジアにおいて、アメリカは、広大な地域を占領した日本を叩き、日本全土を焦土化することにより、アジア地域における経済的・政治的・軍事的な主導権を確立することに成功しました。




[アメリカ軍の空爆で焦土と化した日本の首都東京]

その結果、第2次大戦が終了したとき、アメリカは、西側世界唯一のスーパーパワーとして君臨することになります。


3. アメリカによる自由貿易体制破壊および中国破壊の策謀

同様のシナリオが、再び実施されようとしています。現在、アメリカが破壊しようとしている既存秩序は、自由貿易体制とその下で急速に経済力・軍事力を拡大している中国です。

中国は、2020年には、GDPでアメリカを追い越すと言われています。購買力平価を勘案した場合、すでに中国の経済規模はアメリカを追い越しているという試算もあります。

経済力の拡大にともない、中国の軍事力も急速に拡大しています。すでに中国の軍艦の数は300隻を超え、アメリカの軍艦数を超えています。地上発射型の中距離ミサイルは1000発を超え、日本本土から南シナ海、グアム島までを射程に収めています。アメリカの空母は、中国に近づけません。

中国は、次世代の戦略兵器である極超音速飛翔体の実験に成功しています。そして、自前のGPS衛星も確立し、超音速の巡航ミサイルを配備済みです。アメリカは、極超音速飛翔体の実験に一度も成功していません。超音速巡航ミサイルも、いまだに開発段階です。

中国は、自由貿易体制の堅持を主張し、アジアからヨーロッパまでを結ぶ「一帯一路」政策を強力に押し進めています。ユーラシア経済を統合した場合、中国の経済力は、さらに数倍に拡大することが予想されます。

このまま、自由貿易体制が続き、中国の経済力・軍事力が年々拡大して行けば、アメリカは、中国に圧倒され、二度とスーパーパワーとしての地位を得ることが出来なくなります。

そのため、このような状況の下、アメリカは、再び、恐慌から戦争・焦土化というシナリオを発動させているように思われます。

アメリカは、まず、中国の商品に高関税をかけ、中国の経済成長にブレーキをかけることにしました。自由貿易体制の破壊です。中国も、アメリカ商品に報復関税をかけました。

高関税によるブロック経済化の影響で、世界経済は不況に陥る危険性が高まっています。しかしながら、むしろアメリカは、恐慌が起こることを望んでいるようです。

ドイツ銀行の不良債権、日銀の異常な国債・株買い、イタリアの経済不安など、どこが起点になっても、大不況が押し寄せる危険があります。

そして、中国を破壊する道具として、アメリカは、再び、日本を利用しようとしています。旧香港宗主国イギリスも、アメリカの道具として利用されるつつあるようです。

日本では、安倍政権の下、政府によるメディア支配、特定秘密保護法成立、安保法制成立、共謀罪法成立と、着々と、ファシズム化、戦争準備が進んでいます。

韓国に対する輸出規制により、日本が、他国を経済的に威嚇することも始まりました。世論調査によると、なんと日本国民の8割が輸出規制に賛成しているそうです。間もなく、経済的威嚇で言うことをきかせることが出来ない相手には、軍事的威嚇で言うことを聞かせるべきだと言う論調が、メディアから盛んに喧伝されるようになるでしょう。その世論誘導が、憲法改定につながります。[1]

軍事的には、琉球列島・奄美諸島で、自衛隊ミサイル基地の建設が進んでいます。中国本土を狙える中距離ミサイルが配備される予定です。

今後、仮に北朝鮮の核兵器が維持されたまま、北朝鮮と韓国が統一を実現すれば、核を保有した統一朝鮮に対抗して、日本も核武装すべきだという論調が日本を支配することになるでしょう。

国産の核兵器にせよ、アメリカからの貸与にせよ、日本の核兵器は、琉球列島・奄美諸島の自衛隊ミサイル基地に配備された中距離ミサイルに搭載されることになるでしょう。ただし、北朝鮮と韓国に対抗して導入された核兵器は、実際は、中国に対する軍事的威嚇として使用されることになります。

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奄美大島・大熊地区において建設中の自衛隊ミサイル基地

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宮古島において建設中の自衛隊ミサイル基地

ここまでは、日本保守派とアメリカ保守派の思惑は一致しています。ところが、ここから先は、第2次世界大戦のとき同様、アメリカが日本を利用し、日本はアメリカに裏切られることになります。

アメリカは、現在、オフショア・バランシング戦略を採っています。アメリカが敵対国と直接戦うのでなく、地域の同盟国を敵対国と戦わせるという戦略です。アメリカとすれば、中国と直接戦いたくありません。中国本土とアメリカ本土で、互いに核弾道ミサイルを撃ち込み合う事態に発展してしまうからです。これに対し、日中間で地域的核戦争を起こさせれば、壊滅するのは中国と日本です。[2]

日本としては、あくまでも核ミサイルは抑止力のためであり、実際に使うつもりはないという立場でしょう。実際、日本の政治家も、官僚も、核ミサイルを実際に使う意思はないはずです。

しかしながら、アメリカの工作により、何らかの不測の事態が発生し、日中間で軍事的衝突が発生することが考えられます。小規模な軍事的衝突が、またたく間に全面的な軍事的紛争にエスカレートし、追い詰められた日本は、核ミサイルの使用に踏み切るでしょう。





当然、中国は、核ミサイルで日本に対し報復攻撃を行ないます。これらの結果、中国の広大な地域および日本全土が焦土と化します。日本では、先の大戦を遥かに上回る国民が命を失うことになるでしょう。中国は、水爆を保有しています。関東圏および関西圏が全滅することもあり得ます。



日中間で地域的核戦争が起これば、壊滅するのは中国と日本です。アメリカは、無傷で生き残ります。中国と日本が焦土となったあと、アメリカが唯一のスーパーパワーとして君臨することになります。


3. 冷戦時に結ばれた軍事同盟に代わる地域的集団安全保障体制構築の必要性

上記のようなシナリオが現実化することを防ぐためには、冷戦時代に結ばれた日米軍事同盟や日韓軍事同盟に代わり、アジア諸国が参加する集団安全保障体制により、地域の安全と安定を実現して行くことが必要であると思われます。

たとえば、中国やロシアを含むアジア諸国により構成されるCICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)をベースに、そこにASEAN地域フォーラムを合体させ、アジアの集団安全保障機構を整備するということが考えられます。韓国は、すでにCICAの正式参加国です。日本、アメリカは、CICAのオブザーバー参加国です。日本、アメリカも、CICAの正式参加国となることが考えられます。


[CICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)第5回会議]

日本国民のみなさんは、国家安全保障の問題を政治家や官僚任せにせず、ひとりひとりが、アジア各国の利害と思惑を理解し、アジアの平和と安定を維持するには、どのような安全保障枠組みを構築すべきかを、真剣に考える必要があります。なぜなら、安全保障の問題は、国民のみなさんの命と権利・自由に直結する問題だからです。


参照資料:
(1) 「韓国向け輸出規制 「賛成」が80%越え。その理由は?」、2019年7月13日、文春オンライン

(2) "The Case for Offshore Balancing - A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。