【ベーシックインカムは、現金支給でなく、現物支給で行うべきことについて】


[追記]
2019年当時、私は現物支給のベーシックインカムに賛成でしたが、現在は、中国が絶対的貧困撲滅に成功した際に実施した「地域や個人の特性と市場の需要をマッチングして仕事を創出し、小康社会と共同富裕を実現する」手法が、より優れていると考えています。特に、この手法がビッグデータおよびAIと結びついたとき、その効果は絶大です。
(2022年9月15日追記)

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世界各国でベーシックインカムの議論および実験が行われています。

フィンランドでは、2017年から2年間の期間限定でベーシックインカム導入の実験が行われています。カナダの地方都市では、1970年代に「NEGATIVE INCOME TAX (負の所得税)」方式によるベーシックインカムの実験が行われました。イギリス労働党のコルビン党首も、ベーシックインカム導入を主張しているそうです。インドのいくつかの州でも、ベーシックインカム導入が検討されているそうです。

そして、いずれのベーシックインカムも、最低限度の生活を営むに必要な「現金」を支給するという仕組みになっているようです。



そのため、私が、日本の政治家の方々や大学教授など専門家の方々にベーシックインカムの提案をすると、彼らから、「財源はどうするのか?」という疑問が必ず返ってきます。

しかしながら、私は、個人的に、ベーシックインカムは、「現金支給」でなく、「現物支給」で行うべきであると思っています。なぜなら、現物支給にすることによって、ベーシックインカムに要するコストを極限にまで下げることが出来るからです。

「現金支給」でベーシックインカムを行い、受給者に市場で新品を購入してもらうことにすると、莫大な財源が必要となります。これに対し、「現物支給」でベーシックインカムを行えば、知恵と工夫で様々なコスト削減が可能となります。

現物支給のベーシックインカムのもうひとつのメリットは、現在、住居を持ち、十分な衣類、食事を得ることが出来ている人は、支給を受けない選択をするということです。したがって、制度全体のコストを抑えることが出来ます。この点、あらゆる人が定額の支給を受ける現金支給のユニバーサル・ベーシックインカムですと、たとえ満ち足りている人でも、とりあえずもらえるお金はもらっておこうということになるため、莫大な財源が必要となります。

まず衣食住のうち住宅に関して言えば、日本ではすでに住宅は余っています。今後、さらに少子高齢化が進むにつれ、より多くの空き家が生じてきます。それらの住宅をリフォームすることにより、非常に低いコストで住居を提供することが出来るようになります。



また、光熱費に関しても、今後、再生可能エネルギーの普及拡大にともない光熱費は限りなくゼロに近づいていきます。その意味でも、再生可能エネルギーの普及拡大は可及的速やかに行っていくべきです。原子力発電や天然ガス発電のような高コストの発電はやめるべきです。

衣食住の衣類について言えば、リサイクルで古着を提供するようにすればコストはゼロです。また、新しい衣類でも、規格化し、自動生産を導入すれば非常に低いコストで衣類を提供することが出来るようになります。競争入札の上、ユニクロなど低コストのノウハウを有する衣料メーカーに、ベーシックインカム用の衣類を大量発注することが考えられます。



衣食住の食について言えば、これも自動生産を導入すれば、コストを非常に下げることが出来ます。現在すでに多くの食品は自動生産によって生産されています。競争入札の上、ヤマザキ製パンなどノウハウを有する食品メーカーに、ベーシックインカム用の食品を大量発注することも考えられます。





大切なことは、「現物支給のベーシックインカムにより最低限の衣食住を提供する、しかも、それを最小のコストで実現する」、という政治目的を明確に打ち立てることです。そうすれば、必ず生産・流通・コスト削減の専門家たちが様々な知恵と工夫を発揮してくれます。政治の役割は、明確な目的を提示することにより、人々の知恵と工夫を引き出すことにあります。

この点、ベーシックインカムを現物支給で行うと、民業を圧迫するという反対論が出てくると思います。しかしながら、住宅に関しても、衣類に関しても、食事についても、ベーシックインカムで支給されるのは最低限のものです。それ以上の住宅に住みたい、それ以上の衣類を着たい、それ以上の食事を食べたい、という需要は必ずありますから、民業を圧迫することはありません。これも、ベーシックインカムを現物支給で行うことにより明確になります。

ベーシックインカムが導入されると、労働の性質が変わることになります。これまでは、自分が食べるために働く、そのため、嫌な仕事でも働く、ということが普通でした。パワハラを受けても働く、長時間残業を強いられても働く、ということが行われていました。これに対し、ベーシックインカムで最低限の衣食住が支給されることになると、食べるために働く必要はなくなります。そのため、自分は何のために働くのか、が問われることになります。そして、最終的に、人々は、他の人を幸せにするために働く、それが労働の本質である、ということに気付くと思います。これまでも、労働の中にその要素は入っていました。ベーシックインカム導入により、それが、より明確に労働の目的になるということです。



ベーシックインカムを導入すると、仕事をしないで、昼間から酒を飲んでダラダラしている人ばかりになるのではないか、という懸念を持つ方もいらっしゃると思います。しかし、そのような生活をすると、自分に誇りが持てないことになります。他の人を幸せにする喜びを体験し、実感してもらうことが大切であると思います。感謝される喜びを体験してもらうことが大切であると思います。実際、カナダの地方都市で1970年代にベーシックインカムの実験を行った際、仕事を辞める人は一人もいなかったそうです。

逆に、私が懸念するのは、ベーシックインカムの導入が、従来提供されてきた福祉の切り捨てのために使われるのではないかという点です。実は、ベーシックインカムについては、アメリカ最大手の銀行JPモルガン・チェースのダイモン会長も賛成しているそうです。また、非正規雇用を拡大させてきた竹中平蔵氏も賛成しているそうです。しかしながら、彼らの真意は、従来の福祉を切り捨てるとともに、福祉行政に携わる多くの公務員を削減するというところにあると思われます。

ベーシックインカムを現金支給で行うと、現金を提供しているのだから、他の福祉施策は必要ないだろう、他の福祉施策は全て廃止すべきだ、という議論につながります。これに対し、ベーシックインカムを現物支給で行うことにすれば、現物支給では不足する部分を補うために、従来の福祉施策を弾力的に運用し、補完していくことが必要となります。したがって、福祉の切捨てを防ぐことが出来ます。

少子高齢化にともない、年金制度の破綻、生活保護受給者の急増が予想される現在、ベーシックインカムの導入は、するべきか否かという問題ではなく、いつ、どのように導入するかという問題であると思います。

まずいくつかの県あるいは市で現物支給のベーシックインカムを実験的に導入し、そこで得られた知見を基に、より広い地域に拡大していくことが考えられます。ちなみに、昨年9月の沖縄県知事選挙では、元那覇市議の渡口初美候補が沖縄県でベーシックインカムを実施することを公約としていました。

国民のみなさんは、野党に対し、単なる選挙協力にとどまらず、福祉政策・経済政策・産業政策・安全保障政策を含む共通政策の確立を行うよう求める必要があります。それは、「現物支給によるベーシック・インカム導入」「地方分権」「電気自動車・再生可能エネルギーの普及拡大」「日米安保条約に代わる中国・アメリカ・アジア諸国による集団安全保障体制の確立」などを柱とすることになるでしょう。

ちなみに、国内にせよ国際にせよ金融資本およびその影響下にある専門家たちは、現物支給には反対するでしょう。現金支給の方が貨幣が循環し、金融資本のビジネスチャンスが増えるからです。

なお、インカム(Income)という言葉は現金収入を意味するため、現金支給のベーシックインカムと区別するため、現物支給の場合は、ベーシックサービスという名称にした方が良いかも知れません。


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。