【対艦ミサイル・対空ミサイルの配備により軍事要塞化する琉球列島・奄美諸島とアメリカのオフショア・バランシング戦略について】

1. 琉球列島および奄美諸島要塞化の背景

アメリカ海兵隊の辺野古基地建設をめぐる沖縄県と中央政府の政治的対立の陰で、現在、琉球列島(宮古島と石垣島)と奄美諸島(奄美大島)において、自衛隊の対艦ミサイル・対空ミサイル基地の建設が急ピッチで進められています。

与野党の政治家もメディアも、辺野古基地建設をめぐる政治的対立についてはふれますが、琉球列島および奄美諸島の要塞化・ミサイル基地化についてはほとんどふれません。

photo.JPG

photo.JPG

しかしながら、私は、個人的に、実は、琉球列島および奄美諸島の要塞化・ミサイル基地化の方が、軍事的・戦略的には、より大きな意味があるのではないかという気がしています。以下、ご説明させて下さい。

今や時代は、制空権をめぐる航空戦の時代から、弾道ミサイルを撃ち合うミサイル戦の時代に移っています。

1996年の台湾危機以降、中国は、アメリカの空母打撃群が中国本土および中国領海に近づくことを防ぐため、短距離・中距離ミサイルを中国本土に大量に配備し続けました。いわゆる「接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略」です。[1]

その結果、中国は、すでに日本列島、東シナ海、南シナ海を射程に収める1000発を超える中距離弾道ミサイルを保有しています。在日米軍基地も、自衛隊基地も、いつでも破壊出来る態勢です。

RAND研究所のレポート「THE U.S.-CHINA MILITARY SCORECARD」において示されているように、沖縄の嘉手納基地の滑走路は、わずか2発の弾道ミサイルの着弾で使用不可能になります。建設が予定されている辺野古基地も同様です。航空機の離発着はすぐに不可能になります。[2]

また、海上を移動する第7艦隊の空母打撃群に対しても、中国が、戦術核を搭載した中距離弾道ミサイルを使えば、これを殲滅出来る状況です。アメリカの空母打撃群は、中国本土に近づけません。

このため、現在、東アジア、東シナ海、南シナ海では、中国がアメリカに対し、軍事的優位を確立しつつあります。


2. 琉球列島および奄美諸島の要塞化とアメリカのオフショア・バランシング戦略

そこで、アメリカは、中国に対抗するため、日本政府に琉球列島および奄美諸島を「浮沈空母」として要塞化させることにしました。

奄美諸島および琉球列島に建設中の自衛隊のミサイル基地には、移動式の対艦ミサイル・対空ミサイルが配備される予定です。そして、基地周辺には、移動式ミサイルを格納するため、地中深く多数の長大なトンネルが掘られると思われます。

多数の長大なトンネル内に格納された移動式ミサイルは、外部からはその位置を特定することが出来ません。そのため、たとえ中国のミサイル攻撃や空爆を受けても、多くの移動式ミサイルは破壊を免れ、反撃し続けることが可能になります。まさに「浮沈空母」です。

photo.JPG

photo.JPG
奄美大島・大熊地区において建設中の自衛隊ミサイル基地
(写真出典: 小西誠さんの2018年9月1日付ブログ記事「軍事要塞に変貌する奄美―種子島(馬毛島)―薩南諸島」)[3]

photo.JPG
奄美大島・瀬戸内町において建設中の自衛隊ミサイル基地
(写真出典: 小西誠さんの2018年9月1日付ブログ記事「軍事要塞に変貌する奄美―種子島(馬毛島)―薩南諸島」)

photo.JPG
宮古島において建設中の自衛隊ミサイル基地
(写真出典: 小西誠さんの2018年9月7日付ブログ記事「政府は、自衛隊全体を「災害派遣部隊」として根本から再編成せよ」)[4]

現在、日本政府は、あくまでも尖閣諸島の防衛のため、および奄美諸島や琉球列島を通過する中国の軍艦や航空機に備えるため、対艦ミサイル・対空ミサイルを琉球列島および奄美諸島に配備するとしています。

しかしながら、建設中の基地はきわめて大規模であり、将来的には、より射程の長い中距離ミサイルの配備も想定されているのかも知れません。

中国の中距離ミサイルにより、アメリカの水上艦艇は、東シナ海・南シナ海において、自由な活動が出来なくなりました。これに対抗して、自衛隊が琉球列島および奄美諸島に中距離ミサイルを配備すれば、今度は中国の水上艦艇が東シナ海・南シナ海で自由に活動出来なくなります。東シナ海・南シナ海は、まさに「死の海」になります。

さらに、もし仮に日本が憲法9条を改定した場合、日本は攻撃的兵器の配備を開始し、琉球列島および奄美諸島に、より射程を伸ばした中距離ミサイルを配備するかも知れません。中国の上海や天津、北京まで射程に収める中距離ミサイルを配備するかも知れません。そして、日本は戦術核の配備も行うかも知れません。

現在、アメリカは、アメリカ自らが中国やロシアと戦うのでなく、地域の同盟国を中国やロシアと戦わせ、自らは後方から指令を出す、いわゆるオフショア・バランシング戦略を進めています。自衛隊による琉球列島および奄美諸島の要塞化は、まさにオフショア・バランシング戦略の具体化になります。[5]

仮に日中間で軍事衝突が起こっても、アメリカは、中国と日本の軍事衝突に巻き込まれることを出来るだけ避け、日本に対し情報の提供や物資の提供などを行うだけでしょう。すでに2015年の日米新ガイドラインにおいて、自衛隊は島嶼攻撃を阻止する第一義的な責任を有する、と定められています。

今後、琉球列島および奄美諸島の要塞化が進めば、近い将来、琉球列島あるいは奄美諸島を通過する中国軍艦艇と自衛隊の間で、何らかの軍事衝突が偶発的に起こるかも知れません。あるいは、かつての盧溝橋事件のように、日本側が謀略で意図的に中国との軍事衝突を引き起こすかも知れません。

琉球列島および奄美諸島付近で日中の軍事衝突が繰り返され、さらに、琉球列島および奄美諸島に中国の上海や天津、北京までをも射程に収める中距離ミサイルが配備され、戦術核の配備も行われた場合、事態をコントロール出来ない中国共産党政権に対し、中国国民の不満が高まるかも知れません。

かつて、ソ連では、アフガン戦争における軍事的な失敗が体制崩壊のひとつのきっかけとなりました。アメリカのオフショア・バランシング戦略の目的は、琉球列島および奄美諸島の要塞化を通じ、中国を地域的な軍事紛争に引きずり込み、中国の体制に揺さぶりをかけることにあるものと思われます。

そこにおいては、軍事的効率性・政治的目的の実現のみが追求され、住民の生命・身体の安全への考慮は皆無です。


3. 中国による琉球列島および奄美諸島制圧の可能性

今後、琉球列島および奄美諸島に対艦ミサイル・対空ミサイルが配備され、要塞化が進み、さらに、日本の憲法9条が改定され、より射程の長い中距離ミサイルや、さらに戦術核が配備される見込みになれば、中国も軍事的対応を迫られることになるでしょう。

現在、中国は、海兵隊に相当する海軍陸戦隊・3個旅団(約15000名)を有していますが、2020年までに、これを7個旅団にし、兵員も3倍に増強するそうです。

中国の側から見れば、琉球列島および奄美諸島への自衛隊による対艦ミサイル配備・対空ミサイル配備は、軍事衝突時に、琉球列島および奄美諸島を軍事的に制圧する正当性を与えることになります。[6]

上述のように、中国は、ミサイル攻撃や空爆だけでは琉球列島および奄美諸島の移動式ミサイルを完全に除去出来ません。中国が琉球列島および奄美諸島の自衛隊のミサイルを完全に除去するには、陸上部隊を上陸させてトンネル内にあるミサイルを全て破壊する必要があります。

photo.JPG

しかしながら、日本の潜水艦とアメリカの攻撃型原潜の存在により、中国の上陸作戦は困難をきわめます。兵員を輸送中の中国の艦艇や補給のための輸送船が、日本の潜水艦とアメリカの攻撃型原潜によって狙い撃ちにされるからです。[7]

ただ、もし仮にロシアが中国を支援するために攻撃型原潜を派遣し、中国の艦艇や輸送船を護衛するということになったら、日本の潜水艦もアメリカの攻撃型原潜も、うかつに中国の艦艇や輸送船に近づけなくなります。

photo.JPG

中国とロシアは、軍事的協力関係を強化しています。ロシアが9月に実施する冷戦時代以来最大の軍事演習「ヴォストーク18」に、中国は3000名を超える兵員を参加させます。両国海軍の共同演習も繰り返し実施されています。オフショア・バランシング戦略の下、日本が中国およびロシアに対し敵対的姿勢を強めるにつれ、中国とロシアの軍事的協力関係は深まって行くことになるでしょう。[8]

なお、軍事衝突時、中国は、自衛隊や日本の政府機関に対し強力なサイバー攻撃を仕掛けるでしょう。さらに、中国は、自衛隊に対し様々な妨害電波を駆使した電子戦を展開するでしょう。その結果、自衛隊の防衛システム・戦闘システムが十分に機能しなくなるでしょう。[9]

仮に軍事衝突が起これば、中国軍がベトナム北部を一時的に占領したのちに撤退した、1979年2月17日〜3月16日の中越戦争のように、短期的な戦闘となる可能性があります。

中国の弾道ミサイルの威力と陸・海・空・宇宙・サイバー攻撃・電子戦の体系的戦闘力を見せつけられた日本は、日米安保条約を基本とする安全保障体制の見直しへ向かうかも知れません。


4. 冷戦型の軍事的対立に代わり集団安全保障による平和の実現へ

現在、日本では、与党はもちろん、野党の立憲民主党でさえ、日米安保条約体制の堅持をうたっています。

しかしながら、日米安保条約は、冷戦時代に締結された軍事同盟です。今後、アメリカが中国との対立を深め、オフショア・バランシング戦略を進めれば、日本は米中対立の最前線に立たされ、まさに日本が戦場となる危険性が高まることになります。

そのため、日本国民は、日米安保条約体制に代わる新しい安全保障体制を構想・構築すべきです。日米安保条約体制に代わり、中国およびアメリカとアジア諸国が構成する集団安全保障体制により地域の平和と安定を維持していくべきです。[10]

photo.JPG

集団安全保障の具体例としては、国際連合やOSCE(欧州安全保障協力機構)、ASEAN地域フォーラムなどをあげることが出来ます。集団安全保障においては、「加盟国の中に」地域の安全を脅かす国が現れた場合、他の加盟国が協力して、その対処にあたることになります。

そのような集団安全保障の仕組みが、中国、アメリカ、アジア諸国の協力により、アジアにおいて構築された場合、集団安全保障機構の総会あるいは理事会における決議に基づき、たとえば、域内のテロ組織や海賊を撲滅するために、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して対処することになります。

また、域内で地震や津波などの災害が発生した場合、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して災害救助活動を行うことになります。

さらに、域内に、核保有を進めようという独裁国が現れた場合、その抑制のため、中国、日本、アメリカが協力することになります。

アジアの平和を維持するため、新しい、あるべき安全保障体制に関し、広範な国民的議論を開始すべきです。男性・女性、全ての年齢層の国民が参加し、新しい、あるべき安全保障体制について議論を開始すべきです。

まず尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、中国との正常な友好関係を回復すべきです。


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。


参照資料:
(1) AirSea Battle, Center for Strategic and Budgetary Assessments, 2010

(2) The US-China Military Scorecard, RAND Corporation, 2015

(3) 小西誠さんの2018年9月1日付ブログ記事「軍事要塞に変貌する奄美―種子島(馬毛島)―薩南諸島」

(4) 小西誠さんの2018年9月7日付ブログ記事「政府・自衛隊は、イージス・アショア、自衛隊の南西シフト態勢などの大軍拡を直ちに中止し、自衛隊全体を「災害派遣部隊」として根本から再編成せよ。」

(5) "The Case for Offshore Balancing - A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue

(6) "China might actually seize Japan's southern islands" by James Holmes, April 10th 2018, SBS News

(7) "Asymmetric Warfare, American Style" by Toshi Yoshihara and James R. Holmes, U.S. Naval Institute Proceedings Magazine - April 2012 Vol. 138/4/1,310

(8) "What Russia's Vostok-18 Exercise with China Means" by Lyle J. Goldstein, September 5th 2018, The National Interest

(9) "Systems Confrontation and System Destruction Warfare: How the Chinese People's Liberation Army Seeks to Wage Modern Warfare" by Jeffrey Engstrom, February 2018, Rand Corporation

(10) "Collective Security Is America's Only Hope", David Santoro, October 15th 2017, The National Interest