【猫の目のように変わるトランプ政権の姿勢にかかわらず、今後の朝鮮半島情勢は、南北間の融和と協力の進展が最大の鍵となることについて】

1. 歴史的な南北首脳会談の実施とその背景

4月27日、北朝鮮の金正恩委員長と韓国の文在寅大統領が歴史的な南北首脳会談を行い、「板門店宣言」を発表、年内に朝鮮戦争を終結させ、平和協定を締結すること、朝鮮半島の完全な非核化を南北の共同目標とすることが合意されました。[1]

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「板門店宣言」においては、北朝鮮の開城に南北共同連絡事務所を設置すること、南北首脳会談を定例化すること、さらに南北間で軍事当局者会談を頻繁に開催することも合意されました。

今年に入ってからの北朝鮮の一連の外交攻勢は、順序を踏み、非常に論理的かつ緻密であり、その内容といい、タイミングといい、外交的観点から見て、きわめて的確であると思います。おそらく、北朝鮮は、中国およびロシアの助言を受けながら、ひとつひとつのステップを進めているものと思われます。

今回、北朝鮮が、アメリカに対する強硬姿勢から一転して韓国、中国、アメリカとの積極的対話姿勢へと変化した理由は、北朝鮮がアメリカ本土を攻撃出来る核兵器と弾道ミサイルの開発を完了したからです。

北朝鮮の移動式弾道ミサイルは、国内各所の地下トンネルと山岳地帯に隠されており、アメリカは、たとえ核兵器を投入しても、軍事力を使って、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルを全て取り除くことは出来ません。そのため、もしアメリカが北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮は、アメリカ本土に対して核ミサイルによる報復攻撃を行うことになります。報復を恐れるアメリカは、北朝鮮を攻撃出来ません。

すでに北朝鮮が大気圏再突入の技術まで得ているかは不明ですが、もし得ていないとしても、北朝鮮は、アメリカ上空の大気圏外で核兵器を起爆し、「電磁パルス攻撃」を行うことが可能です。電磁パルスによりアメリカの電力網・通信網・経済システムが破壊され、最悪の場合、アメリカの全人口の90%が餓死すると予想されています。[2]

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たとえアメリカから先制核攻撃を受けても、報復でアメリカを壊滅させることが出来る能力を得た北朝鮮にしてみれば、アメリカが軍事演習をしようが、戦略的爆撃機を展開しようが影響はないということなのだと思います。報復を恐れるアメリカは、いずれにせよ実際に北朝鮮を攻撃することは出来ないからです。そのため、北朝鮮は、アメリカの軍事的動向如何に関わらず、韓国、中国、アメリカとの対話に集中出来ることになります。

北朝鮮が、着々と韓国との融和を進め、朝鮮半島非核化への決意を明らかにし、平和的外交攻勢を進めている状況において、もしアメリカが北朝鮮を攻撃したら、アメリカは、ただの戦争国家・殺人集団となってしまいます。同盟国の信頼も失うことになるでしょう。上述のように、すでにアメリカに軍事的オプションはありませんが、北朝鮮、韓国、中国の関係が親密になっていく中で、今後、アメリカは、ますます北朝鮮を攻撃しにくくなっていきます。話し合いしかオプションはありません


2. タカ派が主導するトランプ政権の危険性と米朝首脳会談の見通し

しかしながら、タカ派が主導するトランプ政権は、客観的状況から乖離した過度に強硬な立場を取り続けています。

タカ派のポンペオ国務長官と強硬派のボルトン補佐官が主導するトランプ政権は、イランとの核合意からの離脱を発表しました。

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トランプ政権は、イランとの核合意は、イランにウラン濃縮技術の保有を認め、また、弾道ミサイルの開発も許しているため不十分だという立場です。トランプ政権は、イランに対し、ウラン濃縮技術を放棄させて、完全な非核化を求めるとともに、弾道ミサイルの開発も中止させ、シリアやイエメンでの活動も止めさせるつもりのようです。

ボルトン補佐官によると、これは北朝鮮に対する警告でもあるとのことです。北朝鮮が、完全な非核化を受け入れない限り、米朝間での合意は成立しないというメッセージだそうです。[3]

トランプ政権は、アメリカの軍事力を過信し、過大評価しているようです。トランプ大統領は、これまで一度も政府の要職につかず、アメリカ政府をずっと外から見てきたため、アメリカが完勝した湾岸戦争やイラク戦争のイメージだけで、判断をしているのかも知れません。

アメリカは、シリアのアサド政権打倒に失敗しました。中東では、ロシア、イランの影響力が拡大しています。

現在のアメリカに、中東で大規模な軍事的介入を行う財政的・軍事的余裕はありません。イランとの核合意が破棄されれば、イランの核開発・弾道ミサイル開発が何らの制約も受けず、野放しになる恐れがあります。

北朝鮮に関しても、同様です。トランプ政権は、アメリカの軍事的圧力が北朝鮮を話し合いに向かわせたと喧伝しています。国内向け、あるいは、外交的レトリックとして、そのような主張を行うことは自由ですが、実際は、北朝鮮が話し合いに積極的になったのは、上述の通り、アメリカ本土を攻撃出来る核兵器と弾道ミサイルの開発を完了したからです。

トランプ政権が、自らのレトリックに酔い、アメリカの軍事力を過信し、過大評価して、北朝鮮との首脳会談に臨めば、米朝の力関係と不釣り合いな過度に強硬な要求を北朝鮮に対して打ち出し、話し合いが決裂する可能性があります。

4月下旬、ボルトン補佐官は、報道番組で、北朝鮮の非核化についてリビア方式が念頭にあるとし、アメリカが何らかの譲歩をするためには、まず北朝鮮が全ての核弾頭、全ての核関連物質、全ての大陸間弾道ミサイルを国外に搬出する必要があると発言しました。これは、明らかに米朝間の客観的力関係から乖離した過度に強硬な要求です。そして、実際、ポンペオ国務長官は、5月9日に訪朝した際、北朝鮮が保有する核弾頭や核関連物質、大陸間弾道ミサイルの一部を、半年以内に国外に搬出するよう求めたそうです。[4][5]

さらに、トランプ政権の大きなミスは、米朝首脳会談の前に、イラン核合意からの離脱を発表したことです。現在のアメリカに、東アジア(北朝鮮)と中東(イラン)で、二つの紛争に対応出来る財政的・軍事的余裕はありません。そのため、トランプ政権が、今後、イラン封じ込めに集中するためには、北朝鮮との間で合意に達することが、どうしても必要となります。

交渉における力関係は、どちらの側が相手が必要とするものを持っているかで決まります。相手が持っているものをどうしても必要とする側は、相手側の要求を受け入れざるを得ません。

米朝首脳会談の前に、イラン核合意からの離脱を発表したことで、アメリカは、北朝鮮との合意が必要となり、北朝鮮に対し、自らを弱い立場に追い込みました。状況の変化を理解した北朝鮮はすぐに反応し、韓国との高官協議をキャンセルして揺さぶりをかけるとともに、米韓軍事演習に不快感を示し、リビア方式を唱えるボルトン補佐官を厳しく批判しました。

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これに対し、トランプ政権は、次々と譲歩し、北朝鮮の要求を受け入れることになります。まず米韓軍事演習において、予定されていた戦略爆撃機B-52の参加を急遽取り止めました。また、トランプ大統領は、ボルトン補佐官の発言を否定し、リビア方式は考えていないと明言せざるを得ませんでした。さらに、米韓首脳会談において韓国の文大統領から助言があったと思われますが、トランプ大統領は、従来の即時核廃棄の立場を変え、段階的非核化の可能性について発言し始めました。[6][7][8]

米朝間の客観的力関係に照らせば、6月上旬に予定されている米朝首脳会談において、アメリカは、南北首脳会談と「板門店宣言」の内容を追認し、米朝間でも、平和協定締結へ向けて交渉を開始すること、北朝鮮への不可侵を保証すること、朝鮮半島の完全な非核化を目標とすることに合意するべきです。

米朝首脳会談においては、あくまでも大枠の合意にとどめ、平和協定の具体的内容や締結の時期、非核化のプロセスや日程、検証の方法などについては、6月以降の実務者協議に委ねるべきです。

しかしながら、その後、5月24日、ホワイトハウスは、突然、トランプ大統領から金正恩委員長へのレターを公表し、6月12日に予定されていた米朝首脳会談をキャンセルしました。トランプ政権は、どうしても客観的状況を認めたくないようです。[9][10]

レターには、アメリカの核兵器は、北朝鮮の核兵器よりも大量で破壊力があるなどと脅しとも取れる内容が書かれていました。また、トランプ大統領は、マティス国防長官と懇談し、アメリカ軍は準備が整っていると発言したそうです。軍事力による脅しの姿勢に逆戻りです。

ただ、レターが公表された2時間後に、トランプ大統領は、米朝首脳会談が後日開催される可能性についても言及しており、トランプ政権は、あくまでもアメリカの軍事的圧力が北朝鮮を話し合いに向かわせたという認識を変えず、北朝鮮がそれを認めて、即時全面的な核兵器放棄に応じるなら、仕切り直して、米朝首脳会談を行おうという姿勢のようです。

これに対し、北朝鮮は、すでにアメリカを壊滅させることが出来る核兵器と弾道ミサイルの開発を完了したという認識であり、そのため、北朝鮮とアメリカが、互いに譲歩しながら、段階的に、時間をかけて非核化を進めて行くことを主張しています。今後は、このアメリカの決定を受け、北朝鮮、韓国、中国がどのような対応を見せるかが焦点となります。北朝鮮と韓国の融和と協力がどれだけ進展するかが鍵となると思います。

ところが、驚くべきことに、さらにその後、トランプ大統領の米朝首脳会談キャンセルに対し、北朝鮮が誠意ある対応を見せ、いつでも会談の用意があると返答したことを受け、トランプ大統領は、キャンセル表明のすぐ翌日に、米朝首脳会談は開催される可能性がある、当初の予定通り6月12日に開催されるかも知れないと発言しました。

このまさに猫の目のように変わるトランプ大統領の米朝首脳会談に対する姿勢の変化の背景には、トランプ政権内の、そしてアメリカ産業界・経済界の中の激しいせめぎ合いがあるのかも知れません。

これは、あくまでも私の推測ですが、アメリカの防衛産業は、東アジアに軍事的対立要因を維持しておきたいため、ボルトン補佐官を通じて、米朝首脳会談をキャンセルするよう、トランプ大統領に激しく働きかけているのかも知れません。

その一方、ここにきて、アメリカの投資銀行を始めとする金融資本は、北朝鮮と韓国の融和と協力が進み、北朝鮮が改革開放路線を取ることを通じて拡大する、北朝鮮経済の民営化などのビジネス・チャンスに着目し、ポンペオ国務長官を通じて、米朝首脳会談を開催するよう巻き返しを図っているのかも知れません。

トランプ大統領は、「あらゆる人がゲームを行っている。」と語りましたが、それは、北朝鮮、アメリカ、韓国、中国、ロシアだけでなく、トランプ政権内、さらには、アメリカ産業界・経済界のことも指していたのかも知れません。

ちなみに、トランプ大統領自身は、北朝鮮と歴史的な合意をまとめ、偉大な大統領として歴史に名を残すとともに、その勢いで、中間選挙で勝利し、さらに大統領選挙で再選を果たしたいと考えていると思います。

なお、より大局的に見ると、上述したように、現在のアメリカには、東アジア(北朝鮮)と中東(イラン)で、二つの紛争に対応出来る財政的・軍事的余裕はないため、トランプ政権が、今後、イラン封じ込めに集中するためには、北朝鮮との間で合意に達することが必要であるという事情も働いていると思います。


3. 今後は南北間の融和と協力の進展が鍵となることについて

いずれにせよ、アメリカ側の事情はともかく、今後の朝鮮半島情勢で最大の鍵となってくるのは、北朝鮮と韓国が、どれだけ迅速に融和と協力を進めることが出来るかであると思います。北朝鮮と韓国の間で、融和と協力がどんどん進めば、アメリカが北朝鮮に対し軍事的攻撃を出来なくなるのはもちろん、アメリカが北朝鮮と平和条約を締結する圧力・モメンタムがどんどん強まるからです。

その北朝鮮と韓国は、5月26日、電撃的に2回目の南北首脳会談を開催しました。両首脳のこの素早い決断と行動は、外交的に見て、本当に素晴らしいと思います。状況の主導権とモメンタムをつかむ見事な外交的快挙であると思います。

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何より素晴らしいのは、この2回目の首脳会談において、北朝鮮と韓国が、(1)北朝鮮の非核化、(2)朝鮮戦争を正式に終了させ平和条約締結を行うこと、(3)南北間の経済協力・軍事当局者会談を含む「板門店宣言」の履行、の3点へ向け共に協力し、行動して行くということを明確化したということだと思います。[11]

会談では、南北間の不可侵の協定についても話し合われたそうです。それは、平和条約の締結に直結します。

準備期間を全くおかずに、南北首脳がほぼ即決で会談を行ったということ自体が、両国間の親密さ、融和と協力の進展・勢いを表しています。

中国とロシアは、2回目の南北首脳会談とその成果を高く評価しました。

このような状況の下、今後、時間が経てば経つほど、トランプ政権にとって、選択肢は狭まって行くことになると思います。アメリカの立場は弱くなって行くと思います。北朝鮮に対する軍事的オプションは名実ともになくなります。また、北朝鮮に対し強い立場から交渉出来なくなります。

北朝鮮は、アメリカが譲歩しない限り、核兵器と弾道ミサイルを保持し続けることになります。アメリカが話し合いに応じない限り、すでに開発が完了した核兵器を量産することになります。また、たとえ弾道ミサイルの発射実験は停止しても、研究室レベルで、弾道ミサイルの研究・開発は進みます。大気圏再突入の技術や多弾頭化の技術を事実上確立するかも知れません。

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ちなみに、5月8日、北朝鮮の金正恩委員長と中国の習近平主席が、中国の大連で、今年2回目の中朝首脳会談を行いました。[12]

さらに、6月中旬以降、中国の習近平主席が北朝鮮を訪問し、中朝首脳会談を行うとの報道もあります。[13]

北朝鮮は、すでに党大会において、軍事優先のいわゆる「先軍政治」から脱却し、国防と経済の両立を目指す「並進路線」への切り換えを表明しています。先に北朝鮮は、核実験と弾道ミサイル実験を中止し、国内の核実験場を廃棄することを決定しましたが、北朝鮮が朝鮮半島非核化への歩みを具体的行動で示すにつれ、中国は北朝鮮への制裁を段階的に解除し、経済協力・技術支援を行っていくものと思われます。それは、北朝鮮が平和経済へ移行することを可能とします。

また、北朝鮮が非核化を進めるにあたり、中国がその検証を実施することの提案が行われるかも知れません。

さらに、北朝鮮が非核化を実施するに際し、中国がいわゆる核の傘を北朝鮮に提供し、北朝鮮の安全を保障するということも考えられると思われます。

(追記: なお、5月31日、ロシアのラブロフ外相が、北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と会談、北朝鮮が非核化を進めるにつれ、段階的に北朝鮮に対する経済制裁を解除する可能性について発言しました。主要国の中で、初めて、北朝鮮に対する経済制裁の解除に言及したことになります。北朝鮮が朝鮮半島非核化の明確な意思を表明したことを受け、今後、各国が、何時、どのような形で北朝鮮に対する経済制裁を解除して行くかが、焦点になって行きます。[14])


4. 南北間の経済協力の可能性

「板門店宣言」においては、鉄道、道路の南北連結事業の推進が合意されました。

朝鮮半島西岸沿いには、韓国から北朝鮮へつながる鉄道路線が敷設されています。京義線と呼ばれます。この鉄道路線を整備・再開し、定期的な運行を実現すれば、韓国と中国、韓国とロシア、韓国とモンゴルが鉄路でつながることになります。さらに、中国、ロシア、モンゴルを経由して、韓国の釜山からヨーロッパまで鉄路が直結することになります。[15][16]

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かつて行われた南北間の経済協力は、韓国と北朝鮮の間だけにとどまり、小規模でした。鉄道の運行も、北朝鮮の開城工業団地とソウルの間だけでした。

これに対し、今後、南北間の経済協力が進めば、それは、中国が進める「一帯一路」と直結することになります。従来の経済協力と比較にならないほど大きな経済的効果が期待出来ます。

しかも、韓国はAIIB (アジア・インフラ投資銀行) 加盟国です。南北間の経済協力に関し、AIIBから韓国へ巨額の融資が行われるかも知れません。

さらに、韓国側から、朝鮮半島を貫き、ユーラシア大陸の太陽光発電・風力発電施設へつながる直流送電網の建設など、再生可能エネルギーの面でも提案が行われるかも知れません。[17]

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これらの提案を通じて、韓国国民の間に、南北協力による果実として、平和だけでなく、経済的なメリットもあることが広く認知されれば、韓国国民の南北融和への支持が高まることになるでしょう。

また、北朝鮮においては、除隊した兵士がインフラ建設事業に従事することを通じ、軍縮が促進されることになるでしょう。

ロシアから北朝鮮を経由し韓国に至る天然ガス・パイプラインを建設するという計画もあります。[18]


5. アメリカと中国を加えた本格協議への移行の見通し

今後、米朝首脳会談が開催され、その過程で、北朝鮮から、朝鮮半島非核化の条件として、北朝鮮とアメリカの間の平和条約の締結、アメリカの北朝鮮への不可侵の保証などの具体的提案があれば、6月以降、北朝鮮、韓国に、アメリカ、中国を加えた本格的な協議へ移行することが考えられます。

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「板門店宣言」においては、本格的協議の枠組みとして、北朝鮮、韓国、アメリカによる3カ国協議、あるいは、北朝鮮、韓国、アメリカ、中国の4カ国協議とすることが合意されました。ただ、3カ国協議の場合でも、実質的には、中国を加えた4カ国協議になると思われます。

本格協議の内容として、北朝鮮側からは、アメリカが北朝鮮と平和条約を締結すること、アメリカが北朝鮮への不可侵を保証することなどが要求されることになると思われます。アメリカ側からは、北朝鮮が核兵器を放棄すること、北朝鮮国内における基本的人権の尊重を含む民主的措置の実施などが要求されることになると思われます。また、韓国から朝鮮半島の非核兵器地帯化の提案が行われるかも知れません。中国から北朝鮮に対し経済支援と「一帯一路」への参加の提案が行われるかも知れません。[19]

ただ、問題となるのは、現在、トランプ政権には、優秀な外交官がいないことです。アメリカ国内の国際協調派の優秀な人材は、トランプ政権への協力を拒否しています。そのため、トランプ大統領がアメリカ国内の国際協調派と和解し、優秀な人材を政権に迎い入れるか、あるいは、異例ですが、中間選挙以降、上院の外交委員会が、北朝鮮との協議を実質的に監督・主導することになるかも知れません。

トランプ政権での決着が難しい場合、本格協議が断続的に継続され、アメリカの次の政権で最終合意に到達することになるかも知れません。

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なお、仮に平和条約の締結、在韓米軍の撤退となれば、その後の朝鮮統一へのロードマップも必要となってくると思われます。

東西ドイツの統一、南北ベトナムの統一が、ある程度参考になるかも知れません。東西ドイツの統一においては、冷戦にアメリカが勝利し、ソ連軍が東ドイツから撤収したあと、西ドイツの政治システムで統一が実現しました。南北ベトナムの統一においては、ベトナム戦争に北ベトナムが勝利し、アメリカ軍が南ベトナムから撤収したあと、北ベトナムの政治システムで統一が実現しました。

これに対し、朝鮮半島情勢においては、いずれかの側が勝利したという状況にありません。そのため、南北朝鮮統一においては、北朝鮮あるいは韓国のいずれかの国家制度で統一するのでなく、ゆるやかな連邦制を採用し、当面、北朝鮮および韓国のそれぞれの政治システムを維持したままでの統一を行うことが望ましいと思われます。中国およびアメリカが、それぞれ、韓国の民主制度の維持の保証、北朝鮮の政権の維持の保証を行うことが必要です。

その上で、北朝鮮が市場経済を徐々に導入し、韓国の民主主義制度が維持されれば、北朝鮮の平和経済への移行と南北間の交流を通じ、少しずつ北朝鮮に民主主義の諸制度が浸透して行くことになると思われます。

ちなみに、現在、中国の「一帯一路」政策は、北東アジアにも及び、中国、モンゴル、ロシアの間で、道路や鉄道網の整備が進み、経済的協力関係が進んでいます。北東アジアは、経済成長の大きな可能性を秘めています。[20]

韓国の文在寅大統領は、すでに中国の「一帯一路」政策を支持し、積極的に参加することを望むと表明しています。

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もし北朝鮮も「一帯一路」に参加し、経済復興が進めば、南北朝鮮統一へのハードルも下がることとなります。というのも、統一に反対する韓国国民があげる理由のひとつは、統一が実現した場合の経済的負担だからです。

そして、仮に南北朝鮮が統一すれば、「一帯一路」が、韓国南端の釜山にまで及ぶことになり、釜山から平壌、ウランバートルを経由してモスクワ、さらにヨーロッパまで陸路および鉄路でつながることになります。それは、通商・交易・金融・エネルギーを通じ、統一朝鮮に大きな経済的繁栄をもたらすことになるでしょう。逆に、それが、南北朝鮮統一への大きな経済的誘引となるでしょう。


6. 米朝首脳会談あるいは本格協議が決裂した場合

一方、米朝首脳会談において、あるいは、その後の本格協議において、アメリカが北朝鮮の核兵器放棄に関し、非常に短い期限を設け、その実行を迫ったり、核兵器だけでなく化学兵器・生物兵器の破棄を求めたり、人工衛星の発射も止めるよう求めるようなことがあれば、米朝間の話し合いは決裂することになると思われます。

もし米朝間の話し合いが決裂した場合、事態は、アメリカの意向にかかわらず、中国、ロシア、北朝鮮、韓国の間で進展して行くことになると思われます。

中国とロシアも、朝鮮半島の非核化を目標としています。しかしながら、非核化の時期については明確にしていません。むしろ核保有国である中国とロシアは、北朝鮮が、これ以上核兵器と弾道ミサイルの開発を進め、核ミサイルの多弾頭化や大気圏再突入の技術を確立する事態だけは避けたいと考えていると思われます。

そのため、中国とロシアは、もしアメリカが対話を拒む場合には、北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発を「無期限停止」することを条件に、北朝鮮に対する制裁を解除し、北朝鮮に対する経済援助と経済交流の再開に動く可能性があると思います。

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もし北朝鮮が条件をのめば、中国とロシアは、北朝鮮の核兵器および弾道ミサイルの開発を「無期限停止」させるとともに、北朝鮮を「一帯一路」に巻き込むことが可能となります。それは、「一帯一路」の進展と北朝鮮の経済復興につながります。

上述したように、もし北朝鮮が「一帯一路」に参加し、経済復興が進めば、南北朝鮮統一へのハードルも下がることとなります。というのも、統一に反対する韓国国民があげる理由のひとつは、統一が実現した場合の経済的負担だからです。

そして、仮に南北朝鮮が統一すれば、「一帯一路」が、韓国南端の釜山にまで及ぶことになり、釜山から平壌、ウランバートルを経由してモスクワ、さらにヨーロッパまで陸路および鉄路でつながることになります。それは、通商・交易・金融・エネルギーを通じ、統一朝鮮に大きな経済的繁栄をもたらすことになるでしょう。逆に、それが、南北朝鮮統一への大きな経済的誘引となるでしょう。


7. 謀略の可能性および台湾危機の可能性について

ちなみに、南北間の融和、南北間の経済協力が急速に進展することを恐れるアメリカは、何らかの妨害工作を行うかも知れません。たとえば、韓国の政権に何らかのスキャンダルが発生するかも知れません。

また、南北間の融和ムードを破壊する、何らかの軍事的衝突が発生するかも知れません。ただ、その場合、アメリカが直接北朝鮮と交戦するのでなく、日本が当事者となるかも知れません。

たとえば、日本の自衛艦が、北朝鮮への密輸品摘発のために海上阻止行動を行っている際、付近に現れた北朝鮮の軍艦から攻撃を受けたと誤認し、あるいは、誤認したとして、北朝鮮の軍艦との間で実弾射撃を交わすなどの事態が発生するかも知れません。

現在の安倍政権は、国会・国民の監視・コントロールを受けない全くの無法状態にあります。日本の民主主義の未成熟が、アジアの平和を阻害する危険性があります。

なお、仮に朝鮮半島の平和が進展した場合、アメリカは東アジアに対立を生み出すため、台湾への軍事的支援を強化する可能性があります。トランプ政権のボルトン大統領補佐官は、台湾に米軍基地を設けることを主張していますが、韓国ー日本ーアメリカの同盟関係に代わり、台湾ー日本ーアメリカの事実上の同盟関係が前面に出されるようになるかも知れません。

その場合、日本が台湾の安全を保障するという日本版台湾関係法が制定され、集団的自衛権が適用されるようになるでしょう。


参照資料:
(1) Panmunjom Declaration, Wikipedia

(2) US Congressional Report "North Korea Nuclear EMP Attack: An Existential Threat", October 12th 2017

(3) 「米、北朝鮮に警告 イラン核合意は反面教師」、2018年5月9日、日本経済新聞

(4) "John Bolton: U.S. Using 'Libya Model' for North Korea Negotiations", April 29th 2018, Daily Beast

(5) 「『核、半年内に国外搬出を』 米国が北朝鮮に要求」、2018年5月17日、朝日新聞

(6) "B-52 flights for Joint military exercise canceled amid rising inter-Korean tensions", May 21st 2018, Hankyoreh

(7) "Trump Rebuts Bolton, Says Libya Isn’t a Model for Kim Talks", May 17, 2018, Bloomberg

(8) "Trump Backs Away From Demand for Immediate North Korean Denuclearization", May 22nd 2018, The New York Times

(9) "Trump scraps North Korea summit, warns Kim that military ready", May 24th 2018, Reuters

(10) President Trump's letter to Chairman Kim Jong-un dated May 24th 2018

(11) "Leaders of two Koreas hold surprise meeting as Trump revives summit hopes", May 26th 2018, Reuters

(12) "[News analysis] Kim Jong-un takes surprise visit to China prior to North Korea-US summit", May 9th 2018, Hankyoreh

(13) "Chinese President Xi Jinping will visit Pyongyang 'soon,' official says", April 18th 2018, CNN

(14) "Russian Foreign Minister Calls for Phased Lifting of Sanctions on North Korea", May 31st 2018, Sputnik International

(15) "Koreas-Russia Project: S. Korean Businesses to Visit N. Korea as Part of Pyongyang-Moscow Venture", February 10th 2014, BusinessKorea

(16) "Two Koreas, Russia Consider Building Railway Training Center", July 7th 2014, VOA News

(17) "KEPCO pushes for 'power grid' connecting S. Korea, Russia", November 8th 2017, Yonhap News

(18) "Russia Could Build North-South Korea Gas Pipeline", May 30th 2018, OilPrice.com

(19) "Understanding the North Korea threat" by Joseph S. Nye, December 7th 2018, The Strategist

(20) "North Korea and Beyond: An Alternative Vision of Northeast Asia" by Lyle J. Goldstein, December 28th 2018, The National Interest