【台湾新総統就任と台中関係の悪化について】

5月20日、台湾において、独立派の蔡英文氏が新総統に就任しました。就任演説において、蔡英文総統は、台湾国民が自由と民主主義の立場に立つとし、台湾の抱える問題を解決するため、経済構造改革、年金改革、教育改革、司法改革などの改革を進めていくとしました。また、「新南向政策」を進め、東南アジア諸国およびインドとの関係を強化するとしました。

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注目されていた1992年合意に関しては、蔡英文総統は、1992年に中国と台湾国民党との間で合意が成立したという歴史的事実に敬意を表しましたが、1992年合意の中で確認された「ひとつの中国」の原則については一切触れませんでした。

このため、中国政府は、「ひとつの中国」の原則こそが台中関係の基礎であるべきと主張、当面、台湾当局との対話を停止すると発表しました。今後、蔡英文総統が、「ひとつの中国」の原則を受け入れない場合、中国は、台湾に対する圧力を徐々に強めて行くと考えられます。その場合、中国は、下記のような手段を取ることが考えられます。

・台中当局間の対話の停止
・台中間の既存の協定や合意事項の執行停止
・中国から台湾を訪れる観光客の減少
・中国と台湾の間の経済交流の低下
・台湾と外交関係を有する国々への圧力
・国際機関からの台湾の排除
・台湾近海での軍事演習(実弾演習を含む)

1995-1996年の台湾危機の際は、当時の李登輝台湾総統が訪米したことに抗議し、中国は、台湾海峡で実弾演習を実施、台湾に強い圧力を加えました。今回も、中国は、台湾新総統の就任に先立ち、台湾対岸の福建省で、上陸作戦を中心とする軍事演習を行い、圧力を加えました。

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ただし、現在の中国は、上記のように、台湾に対し影響を与える様々な手段を有します。そのため、当面は、軍事的手段以外の方法で、台湾に圧力を加えて行くものと予想されます。

ただし、今後、仮に台湾が独立へ向け、明確な一歩を進めた場合、中国の台湾への対応も一気にエスカレートするものと予想されます。

また、経済状況の悪化など、中国国内情勢の変化が、中国政府に対台湾強硬策を取らせることになるかも知れません。

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いずれにせよ、日本は、台中関係が平和的に推移するよう、常に最大限の外交努力を行うべきです。なぜなら、台中関係の平和的推移が、アジアの平和の鍵だからです。


参照資料:
(1) The full text of President Tsai Ing-wen’s inaugural address, Taipei Times, May 21st 2016

(2) China Stages War Games Days Ahead of Taiwan Inauguration, ABC News, May 18th 2016

(3) China says military drills ahead of Taiwan inauguration part of annual plan, Reuters, May 18th 2016

(4) 'One China' principle must be basis for relations with Taiwan: Xinhua, Reuters, May 21st 2016

(5) Beijing warns will cut contacts if Taiwan doesn't toe line, Daily Mail, May 21st 2016