第286回 「変化続ける企業の共通項」
3月18日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
「変化続ける企業の共通項」
この2年で環境が激変し、各国で異なった企業のあり方が映し出された。新型コロナウイルスのパンデミックによりデジタル大陸が拡大し、ディスラプション(破壊)が進行したことで様々なビジネス機会が生まれた。
米国ではフェイスブックがメタに社名を変え、数百人単位でエンジニア採用に注力し、メタバース領域に進出している。グリーンエネルギー・ヘルスケア・フードテック・バイオテクノロジー・DXといった、成長が加速する未来産業に果敢に取り組んでいる。事業環境が変化した時、「会社を潰さない」ために資金を確保し、「死なない」受け身対応に奔走しながら市場の回復を待つ企業が多い。
一方、新たなビジネス領域やイノベーションに挑戦する企業がある。価値観の変化をビジネス機会と捉え「そこに行こう」と決断するリーダーがいる。未來像を示すビジョンと働き方が明確な企業は「これをやりたい」という人材に起業機会を与え、トップダウンに頼ることなくボトムアップでイノベーションを起こしている。
その企業の一例がリクルートだ。
リクルートの旧社訓で「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という半世紀にわたり語り継がれている言葉がある。創業者の江副浩正さんの組織論がこの社訓に凝縮されている。
一人ひとりの社員に「君はどうしたいの」という問いかけが日々繰り返され、「圧倒的当事者意識」が醸成されている。
イントレプレナー(社内起業家)が「不の発見」から提案したアイデアを事業にするカルチャーがあり、多くの新規事業が立ち上がり、持続的成長の原動力となっている。国内外のスタートアップの買収では既存事業とカニバリゼーションしても「他の誰かにやられるくらいなら、自らが自分たちのディスラプターになろう」と、2012年のインディードのM&Aをしたことから、グローバル企業に躍進を遂げている。現場の責任者は自分の担当するサービスを成長させることに注力しているので、その事業を脅かすような取り組みは難しい。
しかしリクルートは現場との摩擦を恐れずディスラプティブな決断をする体系的組織やカルチャーが備わっている。リクルートが成功しているのは天才的な起業家がいるからでもなく、整備された魔法のような環境があるからでもない。
垣根のないデジタル世界では、競争ルールそのものの変化により、競合との競争の方向性が大きく変わる。
人の思考は日常の仕事に向き合っていると短期的になりがちだが、先を見据えた長期的思考が持続的成長には必要だ。世界では、企業が国境を越えた競争を加速させている。日本の企業は受け身の短期的対応をやめ、長期的目線を持つ革新的人材を生み出す機会に変えるときだ。